Episode27ー告白
「お母様の事を愚かだと言っていたでしょう。見目の良い父に騙されてと」
ヴィオレッタは口を尖らせるように言った。
「い、言いましたが……」
「お母様にとっても失礼よ!私にとっても」
「はい。すいません……なぜお嬢様も?」
首を傾げ、まったく理解していない顔をするルーカスを睨むように見据える。
「そ……」
(それは……考えたら分かるでしょう?言うのやめようかしら)
一瞬躊躇したが、思い直して口を開く。
「……っじゃあ、貴方を好きな、私のことも愚かだと言うの……?」
強い口調で言ったつもりが、最後は消え入るような声になってしまった。
ルーカスは目を見開いて固まっている。心底驚いているようだ。ということは、ヴィオレッタの真意は伝わったらしい。
(うう。早くここから離れたい)
言ったことをすぐに後悔し、逃げ出したくなった。しかし腕が掴まれているので動けない。振りほどこうにもびくともしないのだ。
「も、もう放してちょうだい」
手が放されたので、ヴィオレッタがほっとしたのもつかの間、ルーカスの腕が伸びてきて、後ろからすっぽりと抱きすくめられた。
「ちょっ?ちょっとルーカス?」
抱きしめられたヴィオレッタは、半ばパニックになりながら狼狽えた。すぐ後ろからルーカスの声が吐息と共に聞こえる。
「……お嬢様」
「なっ、なに?」
「僕は見目だけの男ではありません」
「わ、分かってるわ」
(言うことはそれだけなの?)
この期に及んで淡々と言うルーカスに怒りが湧いて来る。この状況はなんなのか。ヴィオレッタが慌てふためく姿を楽しんでいるとしか思えない。
「は、放してちょうだい」
じたばたと腕を動かしながらもう一度言った。すると放すどころか力が強くなった。
「……お嬢様、本当に良いのですね?僕の婚約者になっても」
低い声が耳元で聞こえるが、ヴィオレッタはそれどころではなかった。
(ちょ、ちょっと本当に苦しい)
「ルーカス……!くるしい」
ヴィオレッタの声に、ルーカスは慌てて腕を放した。
「申し訳ありません……大丈夫ですか」
解放されたヴィオレッタは短く息を吐き、ルーカスに向き直った。
「良いと言ってるじゃないの。貴方はどうなの?やたらと私との婚約には否定的だったでしょう」
ヴィオレッタの問いにはすぐに答えず、ルーカスはほっとしたような顔をした。
「否定的……と言いますか、夢を見ないようにしていたのです。僕はお嬢様がベルナントを選ぶよりも前から、お嬢様に懸想していたのですから」
「――えっ……!」
これにはヴィオレッタは心底驚いた。出会って約五年。そんな素振りなど全くなかったではないか。執事なので当たり前なのかもしれないが。
「嘘でしょう……?」
思わずヴィオレッタが呟くと、ルーカスは顔を顰めて唐突にその場に膝を着いた。
「嘘ではありません」
ルーカスはヴィオレッタの握りしめられた手を、解くように持った。
「お嬢様。僕と婚約してください」
掬いあげた手にルーカスがキスをした。触れた手も、声も震えており、ルーカスの緊張が直に伝わってくる。
ヴィオレッタは言葉につまり、こくこくと何度も頷いた。
◇
その後、私とルーカスはフロストハイム公爵邸に戻った。邸宅に戻るなり、ルーカスはアナスタシア様に報告をした。その一報を受け、フロストハイム公爵も皇城から急いで戻って来たようだ。
そして今、応接室でアナスタシア様と公爵閣下と向かい合って座っている。
フロストハイム公爵が呆れたように口を開いた。
「何だルーカス。私たちが提案した時はあんなに反対していたというのに。こうもあっさりと意見を変えるとは」
「父上たちの要望で嫁ぐのと、お嬢様の意志で嫁いでくださるのとでは、天と地の差があります」
ルーカスは父の小言に反論し、ちらりとこちらを向いた。ヴィオレッタと目が合うとにっこりと満足そうににこにことしている。
ヴィオレッタはルーカスの甘い視線に狼狽える事しか出来ない。公爵がずいと身を乗り出した。
「で、フロストハイムの爵位継承権はお前に移していいんだな?」
「はい。肩書がないままお嬢様を娶る訳にはいきません」
「えっ。ちょっと私のとこは外して考えてちょうだい。本当にいいの?」
ここ数日間の問答は何だったのか。ルーカスのあっさりとした承諾にヴィオレッタは慌てたが、アナスタシアと公爵は落ち着いていた。




