Episode21ー次男と三男②
「ははは。そうですね。ナタリア嬢にはルーカスも手を焼いているようです。家門の後継者がルーカスに決まりそうな今、ナタリア嬢はさらにしつこくなりそうですから」
エドガーの言い方では、ナタリアはこれからもルーカスを諦めないように聞こえる。
「さすがに昨日の一件で、ナタリア嬢もルーカスの事を諦めたのではないのですか?アナスタシア様も家門へ抗議するとおっしゃられてましたし……」
エドガーが困ったように首を振った。
「いえ。昨日の件があっても諦めないでしょう。実際、我が家と家格がつりあう家門のご令嬢が、帝国には少ないのです。ナタリア嬢のルーカスへの執着は社交界でも有名ですし……」
「――兄さん」
ルーカスが『余計なことを言うな』とでも言いたげに不機嫌な声を出した。
「執着……ルーカス、貴方大丈夫なの?」
確かにナタリアは、周りが見えていない様子のご令嬢だった。心配の目を向けると、ルーカスは落胆した声音で言った。
「お嬢様、大丈夫です。僕はご令嬢一人あしらえない男ではありません」
(あしらえていないじゃないの……)
と言いたいが、さらに落ち込みそうなので止めておいた。
心外な顔をしているルーカスと、憐憫の目を向けるヴィオレッタを見て、エドガーは満足そうに言った。
「しかし、昨日の件では懲りなくとも、ナタリア嬢がルーカスを諦める日も近いかもしれません」
「え?」
「ルーカスと親し気なご令嬢は今まで見たことがありませんでしたから。ルーカスの婚約者として並ぶヴィオレッタ嬢を目の当たりにすれば、さすがの彼女も諦めるかも……うっ」
とうとうエドガーはルーカスに物理的に口を閉じられた。会話は聞こえないが、ルーカスはこめかみに青筋を浮かべてエドガーを諭している。
(そこまで怒ることがあるかしら?――でも、なるほど。そうね……それは名案なのでは?)
「良いですね。婚約者」
「「えっ」」
二人の声が重なった。
「婚約者のふりをすれば、たしかにナタリア嬢は諦めてくれそうね」
「「ふり……」」
ルーカスは目を見開いたままヴィオレッタの言葉を反芻し、エドガーは言ったあとに憐みの目をルーカスに向けた。
「帝国にいる間だけでも、協力するわ」
ヴィオレッタが拳を握りしめて決意表明をすると、ルーカスが表情のない顔で首を振った。
「いえ。いいです……」
(あ、そうよね)
「良い案だと思ったけれど、私は婚約破棄された身だったわ」
ヴィオレッタの言葉に、ルーカスが付け加える。
「いえ、お嬢様に問題がある訳ではなく、そのような噂が立てば、お嬢様のご迷惑になるからです」
「帝国の次期公爵の婚約者の肩書は、迷惑にはならんだろう」
呆れたようにエドガーが言う。
ヴィオレッタも同意する。婚約破棄された令嬢と婚約したなどと噂になれば、不名誉なのはどう考えてもルーカスの方だと思った。
エドガーが眉間に皺を寄せて思案している。
「……まさかとは思うが、実父のことを気にしているのか?」
「――――……そろそろお戻りになっては?副団長が探しに来てしまいます」
長い沈黙の後、ルーカスは冷ややかに言った。エドガーは諦めたように手を振り、ヴィオレッタに謝った。
「ヴィオレッタ嬢、重ね重ね申し訳ない。どうも俺と父は、こいつの神経を逆なでしてしまうようでね。今日は退散した方が良さそうです」
そう言うと、エドガーはルーカスの木剣を拾った。
「懲りずにまた手合わせしような。ではヴィオレッタ嬢、あとは頼みます」
去っていくエドガーを、ルーカスは恨めしげに見ている。
(な、なにを?何を頼まれたのかしら私は)
この不機嫌そうなルーカスの機嫌を直してくれということだろうか?
ヴィオレッタは短く息を吐いた。
(それは無理かもしれないわ)
何故なら、今からヴィオレッタが聞くことにより、さらに不機嫌になるかもしれないからだ。
ヴィオレッタはルーカスを見据えて言った。自分から言ってくれるのを待とうと思ったが、おそらくルーカスは聞かないと言ってくれない。
「ルーカス。フロストハイム公爵家を継げないと言うのは、貴方の実父が関係しているの?」
ルーカスの身体がびくりと反応した。今までは、分からないことがあれば何でも答えてくれた。聞けば答えてくれていたのだ。だが、この質問は答えてくれないかもしれない。
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