Episode18ーフロストハイム公爵
「ルーカス、公爵家を継ぐことになったの?」
ルーカスはしばらく視線をそらしていたが、我慢強く待っていたら話してくれた。
「皇太子殿下の回復は見込まれないようです。殿下は皇位継承権を私の一番上の兄に託されました。それにより、フロストハイムの継承権が本来なら二番目の兄にいくのですが……二番目の兄は、皇室騎士団に勤めているのですが、領地経営や政務に疎く……」
なるほど。それでルーカスに継承権が回ってきたのか。ルーカスならばクロイツ公爵の下で、領地経営や政務、事業経営など様々な事を学んだ適任者だ。
(寂しいけれど……仕方がないわね)
「……ですが、僕は当主にふさわしくありません。養子なんです」
「……え?」
養子であることはアナスタシアから聞いている。
(養子だから相応しくない?でもアナスタシア様の妹である第二皇女殿下が産みの母ならば、皇族の血を引く高貴な血筋だと思うのだけれど……)
公爵家の後継者に相応しくないとは思えない。ヴィオレッタが考えていると、馬車が公爵邸の前に停まった。
先に馬車を降り、手を差し伸べながらルーカスが言った。
「今日は父や兄達も帰って来ます。夕食の場でお嬢様を紹介致しますね」
「家族団らんの場に私が行ってもいいのかしら?」
全員が集まるとなるとさすがに緊張してしまう。
「もちろんです。それに、父に会う時、背中を押してくださると言ってましたよね?」
ルーカスが覚えていたことにヴィオレッタの顔が緩む。
「あら?お見舞いの際にお会いになったのではないの?」
ルーカスの表情が曇る。
「会いましたが、毎回、億劫になるのです」
「毎回……?不仲なのではないのよね?」
恐る恐る確認するヴィオレッタに、ルーカスは短く息を吐いた。
「そういう訳ではないのですが……お嬢様も会えばわかります」
「そ、そう……」
辟易とした様子のルーカスを見て、ヴィオレッタは気合を入れ直した。
◇
夕食の時間になると、ルーカスが迎えに来てくれた。お父上に会うことになるので、機嫌がよくないのではと心配したが、晩餐会用のドレスに着替えたヴィオレッタを見てルーカスは微笑んで言った。
「そのドレスは先ほど母上が持ち帰ったものですか?とても素敵です。妖精のように可愛らしいですね」
「――な?」
思わず絶句する。ドレスは確かに可愛いデザインだが、ツリ目気味で、暗い髪色の自分が妖精だなんて無理がある。『大袈裟よ!』と言おうとルーカスを見たが、にこにこと手を差し出す姿を見て言葉を飲み込んだ。
ヴィオレッタの父もいつも過剰に誉めるが、それは娘に対するフィルターがかかっているからだと思っていた。五年近く我が家の執事を務めていたから、ルーカスにもヴィオレッタに対して身内フィルターがかかってしまったのかもしれない。ヴィオレッタがじとりと睨むと、ルーカスは首を傾げた。
広間へ行くと、もう皆揃っていた。奥に座っているのがフロストハイム公爵だろう。宰相でありながら鍛え抜かれた体躯。とても文官とは思えない。
ヴィオレッタがルーカスのエスコートを受け部屋へ入ると、奥に座っていた公爵が立ち上がった。大股でこちらへ向かってくる。あまりの勢いに、ヴィオレッタは思わず一歩下がった。
「父上――」
見かねたルーカスが口を開いたが間に合わなかった。
公爵は満面の笑みを浮かべ、なんと両手を広げてヴィオレッタを抱き上げた。公爵の身長は恐らく2メートル弱。ヴィオレッタは想定外の『高い高い』に硬直した。
「やぁ。ヴィオレッタ嬢!よく我が家へ来てくれた!君が幼い頃、何度か会っているんだがもう覚えていないだろう?クロイツ公が言っていたとおり、成長した姿はクロイツ夫人とよく似ているな!君は――…」
「――父上!落ち着いてください。お嬢様はそのような歳ではありませんよ!」
ルーカスが一喝した。
2メートル以上に持ち上げられたヴィオレッタはくらくらしながら理解した。
(な、なるほど。ルーカスの苦手そうなタイプだわ……)
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