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巻き戻すたび、世界の解像度が落ちていく ~彼女を救う15,498回目の夏、僕だけが君を覚えている~  作者: 寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった


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再構築(リビルド)の果て

意識を白濁させるほどの光が収まったとき、俺の鼓膜に届いたのは、みなとみらいの潮騒と、卒業を祝う無数のドローンの規則正しい羽音だった。

ガレージから続くいつもの坂道の上で、俺は一人、春の陽光を浴びながら立ち尽くしていた。


俺は真っ先に自分の右手に視線を落とした。

そこにあったのは、もはや内側から毒々しい青を滲ませ、世界の解像度を削り取っていた「呪いのデバイス」ではなかった。金属の表面を覆っていた異常な熱は完全に失われ、質感は以前手にした時と同じ、くすんだ銀色の筐体に戻っている。針は動かず、液晶には何も表示されていない。ボタンを何度押し込んでも、世界がカクつくことも、過去からログが届くこともなかった。


「……終わったんだな」


俺はそれをポケットに放り込み、坂の下を見下ろした。

そこには、陽と石田、それに萌たちが賑やかに記念撮影をしている姿があった。

かつてターゲットだった陽は、今では大学生活の準備に追われる普通の女の子として笑っている。石田は、凛のタブレットを「オーバーテクノロジーの塊だ!」と興奮気味に覗き込んでいたが、結局のところ、この世界線におけるそれは単なる高精度の演算機に過ぎない。


「浅野くん、また独り言? 観測者としての癖が抜けないのかしら」


隣を歩く高松凛が、俺の顔を覗き込んでくる。

あの日、リビルドされた彼女は、今やこの世界の「日常」という名のログに完全に馴染んでいた。

石田が「どうしても理論が説明できない」と頭を抱え、結局「倫の愛が宇宙のソースコードを書き換えた」という最低の結論で納得したとしても、俺にはわかっていた。


「……なぁ、凛。お前が未来から持ってきた悲劇。結局、何が原因だったのか、今ならわかるか?」


凛は少し考え、それから俺の手を包み込むように握った。

「かつての未来では、私たちは『一人』で戦おうとしていた。でも、この世界線には、想定外の変数が多すぎたのよ。石田くんの理屈や……それから、瑠花ちゃんのあの直感とかね」


作業の手を止め、こちらに気づいて穏やかに手を振る瑠花の姿が見えた。

以前彼女が怯えていた「世界の滑り」は、もうどこにもない。

非技術者である彼女が、その肌で感じ取っていた世界の歪みが消え去ったことこそが、この世界が「確かな現実」になった何よりの証拠だった。


俺の手の中で、銀色の筐体が微かに冷たさを増した。

それはもう二度と、誰かの指先一つで書き換えられることのない、一度きりの今日を刻むためのただの塊だった。


俺たちは歩き出す。

ログの集積ではない、一度きりの、かけがえのない日常の中へ。

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