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巻き戻すたび、世界の解像度が落ちていく ~彼女を救う15,498回目の夏、僕だけが君を覚えている~  作者: 寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった


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境界の青、その先へ

ガレージのシャッターを叩く雨音は、もはや濁流のようなノイズとなって耳を塞いでいた。

モニターに映し出された横浜の街並みは、テクスチャが剥がれ落ち、空には巨大なデジタルノイズが亀裂のように走っている。世界の計算能力は、もう限界だった。


「……石田、準備はいいか」

俺はキーボードを叩く圭の背中に声をかけた。

彼は振り返らず、異常な速度でコンソールを流れるエラーコードと格闘し続けている。その横顔には、かつてデバイスの正体を知って俺を拒絶した時の迷いは、もう微塵もなかった。


「いいわけねえだろ。物理定数から何から、めちゃくちゃに壊れ始めてやがる。今からやるのは、OSがクラッシュしてる最中に、根幹のソースコードを無理やり一行書き換えるような真似だ。一歩間違えれば、俺たちの存在自体がゼロとイチのゴミになる」


石田はそう毒づきながらも、最後のエンターキーを叩き、俺の方を向いた。


「倫、お前のやってることは、工学者からすれば最悪のハックだ。整合性も理論もあったもんじゃねえ。……だがな、そのデタラメな書き換えを『現実』として固定できる奴が、この世界に一人だけいる。計算じゃ導き出せない、当事者の意志を持った『観測者』だ」


石田は不敵に笑い、俺の肩を強く叩いた。


「行ってこい。あとの整合性は、この天才エンジニアが死ぬ気で帳尻合わせてやる。瑠花ちゃんだって、お前の帰る場所を感覚だけで繋ぎ止めてるんだ。……一人で戦ってるなんて、二度と思うなよ」


作業台の隅で、瑠花が強く頷いた。彼女の瞳には、かつて指先の震えを指摘した時と同じ、静かな、けれど揺るぎない光が宿っていた。

俺はポケットの中で熱を帯びる銀色の筐体を握りしめた。


「……ああ、わかってる。行ってくる」


背後で、凛が静かに俺の服の裾を掴んだ。

俺たちは、崩れゆくガレージの光の中に足を踏み出した。

これが最後のログ送信。100日のループを終わらせ、誰も知らない明日を書き込むための、最初で最後の一行だ。

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