表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巻き戻すたび、世界の解像度が落ちていく ~彼女を救う15,498回目の夏、僕だけが君を覚えている~  作者: 寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/50

特異点への介入

深夜の国際会議場。かつて陽が救われ、凛が消えたあの場所は、今や静まり返ったコンクリートの墓標のようだった。


僕は屋上のキャットウォークを、改造したARプロジェクターを抱えて走る。

眼下では、数日前の僕たちが、まさに陽を救おうと必死に足掻いているはずだ。時間はループし、重なり合っている。この場所は今、世界の因果律が最も激しく火花を散らす「特異点」となっていた。


「……ここだ」


屋上の最上段、巨大な通信アンテナの制御パネルに、僕は自作のインターフェースを叩き込んだ。

ストップウォッチを接続する。液晶の「0.000秒」が、アンテナを通じて街のARインフラへと伝播を始める。


『警告:未知のデバイスによる介入を検知。システムを初期化します』


脳内に、無機質な警告音が直接響いた。

世界の修正力だ。僕の存在を「異物」として排除しようとしている。

視界が激しく歪み、足元の鉄骨が砂のように崩れ始める。だが、それは現実ではない。僕の脳がシステムによってハッキングされているだけだ。


「やれやれ……脅しならもっとマシなのをやってくれ」


僕は血の混じった唾を吐き、キーを叩いた。

プロジェクターのレンズから、夜空に向けて真っ直ぐな光の柱が立つ。


「凛、今だ……!」


光の柱が、横浜の夜空に巨大な「ログ」を展開した。

それは、彼女と一緒に過ごした数々の記録。ガレージでの笑い声、雨の日の沈黙、坂道での最後。

世界から消去されたはずの「高松凛という物語」が、街全体のAR信号として再起動リブートされる。


その時、眼下の広場から眩い光が溢れた。

凛が自分を犠牲にして陽を救う、あの決定的な瞬間だ。


本来なら、そこで凛のデータは完全に消滅する。

だが、僕が空に投影した膨大なログが、システムに「エラー」を突きつける。

世界は、凛を「消去すべきデータ」として処理しようとするが、僕が投射したログによって「まだ必要なリソース」だと誤認し、処理を保留する。


『――倫、くん?』


風の中に、微かな声が混じった。

プロジェクターの光の中に、一瞬だけ、実体を持った凛のシルエットが浮かび上がる。

彼女は、数日前の自分と、今の僕を、悲しそうに、けれど愛おしそうに見つめていた。


「凛! 手を掴め!」


僕は光の中に手を伸ばした。

だが、指先が彼女に触れる直前、ストップウォッチから激しい火花が上がった。

アンテナがショートし、投影されていたログがバラバラに弾け飛ぶ。


「……っ、まだ、足りないのか……!」


光は収束し、凛の姿も消えた。

だが、確かな手応えはあった。

システムによる「完全消去」は防いだ。彼女のデータは今、この横浜の空、ARネットワークの隙間に、かすかな「予感」として残留している。


僕は膝をつき、熱を持って歪んだストップウォッチを握りしめた。

体中が、世界の修正力による拒絶反応で悲鳴を上げている。


「あとは……卒業式だ」


あの日、あの場所で、すべてのログを一つに繋げる。

それが僕に残された、最後の「宿題」だ。


僕は、夜明け前の横浜の街を見下ろした。

空には、消えかけた光の粒子が、名残雪のように舞っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ