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巻き戻すたび、世界の解像度が落ちていく ~彼女を救う15,498回目の夏、僕だけが君を覚えている~  作者: 寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった


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演算エラーの暴走

「浅野、伏せろ!」


石田の叫びと同時に、ガレージの壁が「剥がれた」。

物理的な破壊ではない。壁を構成していたコンクリートのテクスチャが、まるで古いポスターのように丸まり、その裏側にある黒い虚無が露出したのだ。


襲撃者の一人が、不自然に肥大化した右腕を振り下ろす。

その軌跡に沿って、空間が紙を引き裂いたように歪み、そこから耳を刺すような高周波のノイズが溢れ出した。


「こいつら……人間じゃない。世界のゴミジャンクから生成された、ただの殺意のプログラムだ!」


俺は銀色の筐体を強く押し込み、局所的な「巻き戻し」を試みた。

だが、デバイスは真っ青に発光し、俺の指を焼くほどの熱を発するだけで、時間は1秒たりとも動かない。


「リソースが……足りないのか……!?」


「倫くん、危ない!」


陽が俺を突き飛ばす。

直後、彼女の足元の床が消失した。

陽の体が宙に浮く。重力演算が死んでいる。彼女は悲鳴を上げることもできず、水中にいるかのようにゆっくりと、天井に向かって「落ちて」いく。


「陽!」


俺は手を伸ばしたが、指先が彼女に触れる直前、空間に巨大な警告ダイアログのような赤い文字が浮かび上がった。


『Critical Error: Object "Sasaki_Hinata" is not defined.』


「定義されていない……? ふざけるな! 陽はここにいる、俺の目の前にいるんだ!」


俺は叫びながら、無理やりデバイスの基板に指を突っ込んだ。

石田と瑠花が組み上げたこのデバイスは、今や俺の意志という電気信号を媒介に、無理やり世界をレンダリングし直そうとしている。


視界が真っ白に染まる。

俺の脳内に、膨大な量のデバッグログが直接流れ込んできた。


――2026年、横浜。

――総演算量、限界突破。

――未解決の不整合、1,402,839件。

――推奨される処理:全データの初期化フォーマット


「……勝手に終わらせてたまるか」


俺は歯を食いしばり、脳を焼かれるような苦痛に耐えながら、陽を包み込んでいる「エラー」のコードを、力技で上書きし始めた。


俺の右手の指先が、デジタルノイズに変わって消失していく。

それでも構わない。

俺という個人のリソースをすべて差し出してでも、この少女の存在を「確定」させてやる。


「倫くん……体が、温かい……」


陽の体がゆっくりと地面に戻ってくる。

だが、その代償として、俺の周囲の風景はさらに崩壊を加速させた。

ガレージの外に広がっていた横浜の街並みは、今や遠くの山々も海も消え失せ、地平線の彼方まで続く真っ白なグリッドの世界へと変貌していた。


石田がモニターを叩き壊すようにして立ち上がる。

「倫! もう限界だ! 世界のシステムそのものが、お前を『最大のバグ』としてロックオンしたぞ!」


ガレージの残骸の向こう、真っ白な空から、巨大な「カーソル」のような光の柱が、俺を目がけて振り下ろされた。


「……やれやれ。本当の戦いは、ここからってわけか」


俺は陽の手を握り直し、消失しかけた右腕を振り上げた。

もはや、隠れてデバッグする段階は終わった。

世界そのものを相手取った、真っ向勝負のハッキングが始まる。

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