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巻き戻すたび、世界の解像度が落ちていく ~彼女を救う15,498回目の夏、僕だけが君を覚えている~  作者: 寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった


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偽りの安寧

ガレージの外では、夕暮れ時の横浜をオレンジ色の光が刺すように照らしている。

陽の命を救うために「ログ」を書き換えてから数日が経ち、街は何事もなかったかのように平穏を取り戻していた。


「あ、倫くん! お疲れ様。これ、みんなで食べようと思って買ってきたんだ」


ガレージの重いシャッターを開けて入ってきた陽は、いつもの屈託のない笑顔でコンビニの袋を掲げて見せた。

俺はその笑顔を見るたびに、胸の奥を刺されるような感覚に襲われる。

彼女が今こうして笑っているのは、俺が世界の整合性を歪め、本来辿るはずだった「死」という結末を無理やり剥ぎ取った結果だ。彼女はその事実を、露ほども知らない。


「……おう。サンキュ、陽」


俺はなるべく自然な声を出し、彼女から袋を受け取ろうとした。

その時、陽がふと動きを止め、俺の顔をじっと見つめてきた。


「……ねえ、倫くん。ちょっと変なこと言ってもいい?」


陽の声から、いつもの明るさが消えていた。

隣のデスクでPCを叩いていた石田も、ハンダごてを握っていた瑠花も、その異変に気づいて手を止める。


「なんだよ、改まって」

「あのね……私、最近変な夢をよく見るの。すごく暗くて、怖くて、自分が自分じゃなくなるような……。でもね、その夢の最後には、必ず誰かが手を伸ばしてくれるんだ。誰かはわからないんだけど、すごく温かくて、頼りになる手」


陽は自分の右手をそっと握りしめ、不思議そうに視線を落とした。


「その夢から覚めると、私、なぜか倫くんの顔が見たくなるんだ。理由は全然わからないんだけど……私、倫くんに何度も助けてもらったような気がするの。だから、ちゃんと言っておきたくて。倫くん、いつもありがとう」


彼女の言葉は、どんな感謝の言葉よりも鋭く、俺の心臓を貫いた。

石田が「夢の解析か? 睡眠不足じゃねえのか」と茶化すが、瑠花だけは違った。瑠花は、以前俺の指先の震えに気づいた時と同じ、全てを見透かすような瞳で俺と陽を交互に見つめていた。


「……気にすんな。俺は何もしてねえよ」


俺は逃げるように視線を逸らし、デバイスが入ったポケットを強く握りしめた。

俺が救った事実は、ログの奔流に消えたはずだった。だが、彼女の魂のどこかに、書き換えきれなかった「感謝」という名のノイズが残っている。


そのことが、今の俺にとって唯一の、そして最も残酷な救いだった。

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