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巻き戻すたび、世界の解像度が落ちていく ~彼女を救う15,498回目の夏、僕だけが君を覚えている~  作者: 寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった


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残響のなかで

ガレージの壁が崩れ、その先に広がる虚無から、冷たい風が吹き込んでくる。

それは物理的な冷気ではなく、存在そのものを否定するような、情報の欠落が生んだ静寂だった。


俺はゆっくりと、自分の手首を返した。

皮膚の質感が、まるで古いフィルムのノイズのように時折ザラつく。自分の体ですら、維持するためのリソースが削られ始めているのだ。


「……行かなきゃならないんだな」


ポツリと溢れた言葉は、誰に宛てたものでもなかった。

足元では、かつて陽と一緒に組み立てたサーバーラックが、もはや色を失ったただの直方体へと成り下がっている。思い出の詰まった場所が、一つ、また一つと「意味のないデータ」に還元されていく。


「……倫くん」


背後で、瑠花が弱々しく俺の服の裾を掴んだ。

彼女の指先は、触れている感覚があるのに、どこか実体がない。霧を掴んでいるような、あるいは遠い記憶をなぞっているような、不確実な感触。


俺は振り返り、彼女の瞳をじっと見つめた。

そこには、俺が知っている「瑠花」の優しさがまだ残っている。たとえそれが、世界が俺を引き留めるために演算し続けている「最後の嘘」だったとしても。


「ごめんな。……すぐ、戻るから」


嘘だ。戻れる保証なんてどこにもない。

次に目を開けたとき、このガレージがあるのか、彼女が「瑠花」としてそこに立っているのかすら分からない。

それでも、俺は彼女の指を優しく解き、闇の境界へと一歩を踏み出した。


「止める気はないわ」


ガレージの入り口、唯一光が差し込む場所に、凛が立っていた。

彼女は何も言わず、ただ進むべき道を示すように、暗闇の先を指差している。その横顔は、悲しんでいるようにも、あるいはすべてを悟って諦めているようにも見えた。


「あなたの選んだ因果が、この世界の終着点。……これ以上、ログを汚さないで」


凛の声は、風に溶けて消えそうなほど細かったが、俺の胸には誰の言葉よりも鋭く突き刺さった。


俺はポケットの中のデバイスを強く握りしめる。

漆黒に染まりきったそれは、もはや時間を操る道具ではなく、世界の断末魔を形にしたような歪な重りとなっていた。


ガレージを後にする俺の背中で、最後の一灯が瞬き、そして消えた。

完全な闇。

その中で、俺はただ自分の心臓の音だけを頼りに、書き換えられるはずの明日を探して、深い因果の底へと手を伸ばした。


セミの鳴き声も、潮風の匂いも、もう思い出せない。

ただ、掌に残る冷たい感触だけが、俺がまだここにいる唯一の証拠だった。

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