表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/4

氷の令嬢と、台本を持つ少女

――王立アルヴェリア学園。


石造りの巨大な正門をくぐった瞬間、空気が変わる。


整えられた花壇、磨き込まれた白い柱、空を切り取るようにそびえる時計塔。


貴族子女たちの香水と、制服の布が擦れる音が混ざり合っていた。


「……人、多いわね」


(お前が原因だよ)


「当然でしょう」


ヒールが石畳を踏むたび、周囲の視線が一斉に動く。


ひそひそ、と抑えた声が波のように広がる。


「あの方がグランツェル公爵家の……」

「例の“氷の令嬢”……」


近づこうとする者はいない。


むしろ、見えない壁があるかのように人の流れが割れていく。


その時だった。


すっと、人の流れが“意図的に”割れる。


まるで舞台の幕が開くように。


「ごきげんよう、アーデルハイト」


(はいー王子きたーーーー!!!)


靴音ひとつさせずに現れた青年。


金色の髪は朝の光を受けて淡く輝き、瞳は柔らかく笑っているのに、奥の温度だけが異様に低い。


完璧に整った顔立ち。


完璧に計算された距離感。


「レオンハルト殿下」


(乙女ゲームだったら絶対メインキャラだな)


「久しぶりだね」


「ええ、殿下もお変わりなく」


言葉は丁寧。


だが間に“空白”がある。


感情が入り込む余地だけ、きれいに削られている。


(裏で腹探り合ってるやつやん)


レオンハルトは視線をゆっくりと周囲へ流す。


制服姿の生徒たち、固まったままの貴族令嬢たち。


そして――一歩も近づけない距離。


「相変わらず、注目の的だね」


(それ本人に言う?)


「視線など慣れていますわ」


アーデルハイトの声は淡々としている。


だがその“淡々”は、慣れではなく遮断だ。


「学園生活には問題ないかい?」


「問題などあるはずがありませんわ」


即答。


「そうか、それは何よりだ」


微笑みは崩れない。


だが目だけが、ほんの一瞬だけ細くなる。


(絶対何か探ってる顔っすね)


(ここでボロ出したら終わりです)


(なお本人は完璧なので出ません)


「……うるさいわね」


(実況してるだけだろ!?)


レオンハルトは軽く手を上げる。


「ところで」


(来るか?来るか?)


「来月の舞踏会、覚えているね?」


空気がわずかに変わる。


周囲の女子生徒たちが息を呑む。


(あ、そっち!?)


「ええ、当然ですわ」


即答だが、温度は変わらない。


「君と踊るのを楽しみにしている」


一瞬だけ、静寂が落ちる。


(うわーーーー!!!)


(これは女子がキャーなるやつ!!!)


周囲のざわめきが一段上がる。


「……光栄ですわ」


その表情は微動だにしない。


むしろ“儀礼として正しい答え”を置いただけのようだ。


レオンハルトは満足げに目を細める。


「では、また」


踵を返す動きすら優雅。


群衆が自然に道を開ける。


(あっさり引いたな)


(スマートすぎて逆に怪しい,,,,,,,,,,,,,)


王子が去る。


その瞬間、空気が一気に“日常”へ戻る。


(……なんも起きなかったな)


「何を期待していたのかしら」


(いやフラグとか色々)


「意味が分からないわ」


(だろうな)


そのときだった。


ざわり、と別方向の空気が変わる。


「新入生よ……」

「今年の編入生らしいわ」


(はい来たーーーーーー)


(ヒロイン登場タイム!!!)


視線が一斉に集まる先。


人の壁の向こうに、ひとりの少女がいる。


栗色の髪。


控えめに揺れる制服のスカート。


周囲に溶け込むようでいて、なぜか“そこだけ輪郭が浮いている”。


(はいテンプレ主人公)


(守ってあげたい系かな?)


だがその瞬間だった。


(ん?)


ユウの思考が引っかかる。


少女の手元。


一瞬だけ、黒い薄板のようなものが見えた。


(……スマホ?)


すぐに布で隠される。


だが――隠す動作が“自然すぎる”。


慌てていない。


慣れている。


(いやいやいやいや)


(この世界にそれある!?)


少女は何事もなかったように歩く。


しかし親指だけが、わずかに動く。


空中をなぞるように。


スワイプするように。


(完全にスマホを操作してる動き)


(まじかよ)


そして、すれ違いざま。


彼女は小さく呟いた。


「……次は、中庭で接触イベント……っと」


(イベント!?)


さらに。


「レオンハルト殿下……好感度、まだ低いなぁ」


(好感度って言ったぞ今!!!)


ユウは息を殺すように視線を凝らす。


(見せろ……今の……)


視界の端。


黒い板が一瞬だけ光を反射する。


そこに流れていたのは――文章。


【――アーデルハイトはこの後、誤解を受ける】


【――ヒロインは偶然を装い、王子と距離を縮める】


(……は?)


(これ、小説じゃねぇか)


さらにスクロール。


【分岐:中庭イベント成功で好感度上昇】


【失敗時:別ルートへ】


(ゲームじゃないか)


少女は小さく頷く。


「……なるほど、この流れね」


理解している。


“起こること”ではなく、“起こすこと”として。


(理解した顔すんな!!!)


「じゃあ、タイミングだけ合わせればいいか」


(お前、それ実質ズルだろ!!!)


ユウの背筋に冷たいものが走る。


(こいつ……未来を知ってる)


少女が顔を上げる。


その瞬間。


視線が――真正面から交差した。


(……っ!?)


空気が止まる。


音が消える。


確実に、“見られた”。


少女の口元が、ほんのわずかに歪む。


笑みというより、“認識した証明”。


「気づいたんだ」


そう言われた気がした。


(やばい)


(こいつ……俺のこと……見えてる?)


「……」


アーデルハイトは何も気づかず、視線を逸らす。


「ただの新入生でしょう」


(違う違う違う違う!!!)


(あれはやばい奴だぞ!!!)


だがその声は届かない。


世界はいつも通り進む。


少女は静かに歩き出す。


何も知らない“主人公”の顔で。


(……終わった)


ユウだけが理解してしまう。


この学園が、ただの舞台ではなく――


“既に結末が存在する物語”だということを。


(そして俺は――何もできない)

アーデルハイト「さっきからなによ?ごちゃごちゃとうるさいわね」

ユウ「だから、やばいやつ、いる、きをつける」

アーデルハイト「,,,,,,,,,,,,,」

ユウ「おい無視すんな!!!!!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ