第五幕 「善意は、時に凶器になる」
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こうして――
筆頭聖女レース最後の候補者は、 サクラ・フォンテーヌただ一人となった。
神殿中が、どこか安堵していた。
――いや、気が抜けてたのかもしれない。
「まあ、多少ドジでもな」
「若いし、これから育つだろう」
「魔力量“だけ”は申し分ない」
……本気、いや正気で言ってる?
前二人が派手に自爆したせいで、目が眩んで相対的にまともそうに見えているだけでは?
当の本人はというと――
「わ、私……がんばります!」
中央治療院で、両の拳を胸の前で握りしめて今日も元気だった。
「よし、まずは深呼吸」
「はいっ!」
吸って――
「ひっひっ…」
吐いて――
「ふっふっー!」
……いや、それなんか違う。産気づいてるわけでもなし。
おまけに、勢いよく吐きすぎて、術式が暴発した。
待合室中の花瓶が割れた。
「……まずは、呼吸から教えようか」
「すみません……」
その日の午後。
薄曇りの空の下――
最初の事故は、軽かった……のか?
「フローリア様! くっつきました!」
誇らしげなサクラの前で、患者が混乱していた。
「……右手と左手が逆ね」
「あっ」
あっ、じゃない――
「もう一度取ってからやり直すしかないわね――取れる?」
「たぶん!」
たぶんって何……?
いやいやいや、何を手に取ってるの!
まさか、それで“もう一度取る”つもりじゃないでしょうね――
物理じゃない!術式を編むのよ!
――だから、手斧を離しなさい!!
二件目の事故は……笑いを堪えるのに、腹筋が痛くなった。
「毛根治療をお願いしたい」
長年悩んでいたらしいお貴族さまがお忍びで来た。
サクラは目を輝かせて張り切った。
「お任せください!」
結果――
髪が伸びた。
伸びた。
さらに伸びた。
礼拝堂の柱に絡まった。
「止めて止めて止めて〜〜!」
「止まりませ〜ん!」
最終的に――
全部抜けた。
お貴族さまは悟りを開いた顔をしていた。
………神殿にお誘いしようか。
三件目の事故――どこか既視感がある定番のセリフと思ったら……
「熱があります」
ただの風邪だった――
普通なら水分補給と安静で済む。
だがもちろんサクラは違った。
「治癒します!」
術式が光る。
患者も光る。
ベッドも光る。
なぜか部屋全体が光る。
「ま、まぶしい――!」
「治りました〜!」
「「「め、目が〜〜!」」」
別に、前世の物語で“滅びの言葉”とされていた何かを口にしたわけでもないのに――
……ひどい目にあった。
夕方――逢魔が刻。
神殿は、見通しの利かない薄暮に包まれていた。
ついに幹部会が開かれた。
議題は一つ――
『サクラを筆頭にしてよいのか』
答えは、全員の顔に書いてあった。
――よくない。
その時だった。
扉が勢いよく開く。
「すみません!」
サクラだった――
頬を紅潮させ、息を切らしている。
――悪い予感が辺りを包み込む。
「今度は何を……」
問い掛ける言葉に被せるように、
「患者さんを――」
一同が身構える。
「助けました!」
「……本当に?」
「はい!」
「どこに?」
「あそこです!」
振り向く。
サクラの指さす先に患者がいた。
天井にめり込んでいる。
「「「なぜ――!?」」」
「勢いで………」
でしょうね……
脳内で、舞台喜劇の締めに鳴る“ずっこけ音”が響いた。
その夜――
シトシトと振り続く雨が鬱陶しい。
「私……筆頭なんて、無理です……」
珍しく、自分から言った。
「皆さんみたいに、上手にできません……」
それを聞いて、私は少しだけ肩の力を抜いた。
遅ればせながら、ようやく自覚したらしい。
「でも……」
サクラは涙を拭った。
「私もう少し、聖女を頑張ります」
それでいい。
筆頭には向かなくても……
この子はきっと、いい聖女になる。
十年後……は無理かも。
でも、多分二十年後くらいには、きっと――
こうして――
三人目の候補者も、脱落した。
候補者は、ゼロ。
礼拝堂には、なんとも言えない沈黙が落ちた。
そして誰かが言った。
「……で?」
その「で?」が、嫌な予感の始まりだった。
同時期の短編です。こちらもお楽しみいただければ幸いです。
子爵家令嬢は見た!!
〜恋文の差出人は多股令嬢でした〜
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