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平凡聖女、筆頭になるつもりはありません〜神殿は奇跡だけでは回らない 〜  作者: 猫が寝転んだ


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第五幕 「善意は、時に凶器になる」

毎晩19時40分更新予定です。

 こうして――

 筆頭聖女レース最後の候補者は、 サクラ・フォンテーヌただ一人となった。


 神殿中が、どこか安堵していた。

 ――いや、気が抜けてたのかもしれない。


「まあ、多少ドジでもな」

「若いし、これから育つだろう」

「魔力量“だけ”は申し分ない」


 ……本気、いや正気で言ってる?


 前二人が派手に自爆したせいで、目が眩んで相対的にまともそうに見えているだけでは?


 当の本人はというと――


「わ、私……がんばります!」


 中央治療院で、両の拳を胸の前で握りしめて今日も元気だった。


「よし、まずは深呼吸」


「はいっ!」


 吸って――


「ひっひっ…」


 吐いて――


「ふっふっー!」


 ……いや、それなんか違う。産気づいてるわけでもなし。


 おまけに、勢いよく吐きすぎて、術式が暴発した。


 待合室中の花瓶が割れた。


「……まずは、呼吸から教えようか」


「すみません……」



 その日の午後。

 薄曇りの空の下――


 最初の事故は、軽かった……のか?


「フローリア様! くっつきました!」


 誇らしげなサクラの前で、患者が混乱していた。


「……右手と左手が逆ね」


「あっ」


 あっ、じゃない――


「もう一度取ってからやり直すしかないわね――取れる?」


「たぶん!」


 たぶんって何……?


 いやいやいや、何を手に取ってるの!

 まさか、それで“もう一度取る”つもりじゃないでしょうね――

 物理じゃない!術式を編むのよ!


 ――だから、手斧を離しなさい!!



 二件目の事故は……笑いを堪えるのに、腹筋が痛くなった。


「毛根治療をお願いしたい」


 長年悩んでいたらしいお貴族さまがお忍びで来た。


 サクラは目を輝かせて張り切った。


「お任せください!」


 結果――


 髪が伸びた。

 伸びた。

 さらに伸びた。


 礼拝堂の柱に絡まった。


「止めて止めて止めて〜〜!」

「止まりませ〜ん!」


 最終的に――

 全部抜けた。


 お貴族さまは悟りを開いた顔をしていた。


 ………神殿にお誘いしようか。



 三件目の事故――どこか既視感がある定番のセリフと思ったら……


「熱があります」


 ただの風邪だった――


 普通なら水分補給と安静で済む。

 だがもちろんサクラは違った。


「治癒します!」


 術式が光る。

 患者も光る。

 ベッドも光る。

 なぜか部屋全体が光る。


「ま、まぶしい――!」

「治りました〜!」


「「「め、目が〜〜!」」」


 別に、前世の物語で“滅びの言葉”とされていた何かを口にしたわけでもないのに――


 ……ひどい目にあった。



 夕方――逢魔が刻。

 神殿は、見通しの利かない薄暮に包まれていた。


 ついに幹部会が開かれた。

 議題は一つ――


『サクラを筆頭にしてよいのか』


 答えは、全員の顔に書いてあった。


 ――よくない。


 その時だった。

 扉が勢いよく開く。


「すみません!」


 サクラだった――

 頬を紅潮させ、息を切らしている。


 ――悪い予感が辺りを包み込む。


「今度は何を……」


 問い掛ける言葉に被せるように、


「患者さんを――」


 一同が身構える。


「助けました!」


「……本当に?」

「はい!」

「どこに?」

「あそこです!」


 振り向く。

 サクラの指さす先に患者がいた。

 天井にめり込んでいる。


「「「なぜ――!?」」」

「勢いで………」


 でしょうね……

 脳内で、舞台喜劇の締めに鳴る“ずっこけ音”が響いた。



 その夜――

 シトシトと振り続く雨が鬱陶しい。


「私……筆頭なんて、無理です……」


 珍しく、自分から言った。


「皆さんみたいに、上手にできません……」


 それを聞いて、私は少しだけ肩の力を抜いた。

 遅ればせながら、ようやく自覚したらしい。


「でも……」


 サクラは涙を拭った。


「私もう少し、聖女を頑張ります」


 それでいい。

 筆頭には向かなくても……

 この子はきっと、いい聖女になる。


 十年後……は無理かも。

 でも、多分二十年後くらいには、きっと――



 こうして――

 三人目の候補者も、脱落した。


 候補者は、ゼロ。


 礼拝堂には、なんとも言えない沈黙が落ちた。


 そして誰かが言った。


「……で?」


 その「で?」が、嫌な予感の始まりだった。

同時期の短編です。こちらもお楽しみいただければ幸いです。


子爵家令嬢は見た!!

〜恋文の差出人は多股令嬢でした〜

https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/3175059/

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