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平凡聖女、筆頭になるつもりはありません〜神殿は奇跡だけでは回らない 〜  作者: 猫が寝転んだ


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第三幕 「失敗しない聖女は、失敗しない?」

毎晩19時40分更新予定です。


お楽しみいただけましたら、★マークの応援をお願いします。

 派閥争いは、日に日に露骨になっていった。

 口だけでは飽き足らず、ついには手まで出るようになった。


 そして――

 ついに一線を越えた。


『エレベル様が、神官と密会――?』


 朝一番、食堂に貼られた怪文書を見て、私は眉をひそめた。


 粗悪な紙。

 雑な筆跡。

 扇情的な煽り文句が並ぶが、その内容はもっと雑だった――


『失敗しない聖女、深夜の密会発覚!』

『相手は既婚司祭!?』

『聖女の品位とは!?』


「……品位を語る文章の字が、汚すぎて品位の欠片もないわね。

 何の裏付けもないようだし――」


 隣でミレーユが頷いた。


「コリーヌ派ね」


「断定するの早くない?」


「だって、書いた奴が名文だ!

 ……って鼻高々だったもの――」


 ――そんなことで、怪文書に仕立てた意味があるのだろうか?

 匿名性は、どこへ行ったのだろう。

 怪文書としての最低限の礼節くらい、守ってほしい。



 もちろん、エレベル本人は激怒した。


「事実無根です!

 密会なんて、いたしません!!」


 治療室の中央で、ぴしゃりと言い切る。


「私は昨夜、第二病棟で術後管理をしていました!」


 ――でしょうね………


 男女の密会などする時間があるなら、患者を診ている女だ――


 皆それは知っている。


 問題は――

 取り巻きが、それを許さなかったことだ。



 その夜――

 草木も眠る丑三つ時……… 


 当直勤務をしている私のところへ、コリーヌ派の神官が三人ほど運ばれてきた。


 ――全員、顔が腫れており、腕にも多数のあざがある。

 小さいけれど骨折も認められる。


「……どうしました?」

「階段から落ちた」

「三人まとめて?」

「――そうだ」

「…………」


 絶対に違う――腕のあざは防御痕だろう……

 まあ、放っとくわけにもいかないから治療はするけどね。


 ――治療を施しながら、何気なくポツリと問う。


「……誰にやられたの?」

「――判らない」

「そう……」


 いや、すでに答えになってるって……それ――

 もう、素直に認めればいいのに。


 私は骨を戻しながらため息をついた。

 こういう時、患者は妙に意固地になり口が堅い。

 変なところで団結しないでほしい。



 翌朝――

 季節外れの強い風が吹く天気。


 まだ夜も明けきらない早朝――

当直明けの引き継ぎ中だというのに、神殿はもう騒がしかった。


「エレベル派が暴力に訴えた!」

「筆頭失格だ!」

「いや、先に口論を仕掛けてきたのはそっちだ!」


 もう、誰も治療の話をしていない――今にもつかみ合いを始めそうな様相になっている。


 ここは神殿だ。

 闘技場ではない――場外乱闘は控えてほしい。

 徹夜明けの頭にキーキー声が響いて、頭痛がしてくる。


「嫌になるわねえ……」


 言葉とは裏腹に、ミレーユは妙に楽しそうだった。

 この女は本当に駄目だ……



 その日の夕刻――

 日中の強風は小さな嵐へと変わり、神殿もまた、一日中落ち着かなかった。

 ようやく静けさが戻り始めた、その頃――


 全聖女が再び礼拝堂に集められた――


 明けの休日でのんべんだらだらりと自室で過ごしていた私は、めんどくさい…という気持ちを圧し殺して礼拝堂に向かった。


 着いた頃には、もうほぼ全員が集まり、何事か…と壇上に一人立つ人物に注目している。


 壇上に立っているのはエレベル。


 いつものように背筋は伸び、

 いつものように表情は硬い。


 けれど今日は――

 その目だけが、少し疲れて見えた。 いつもの覇気が感じられない。


 やがて礼拝堂が静まり返る。 それを待っていたように、エレベルは口を開いた。


「今回の騒動について――」


 静かな声だった。


「私の支持者の一部が、愚かな行動を取りました」


 礼拝堂は静まり返る。

 誰もが、その一言を聞き逃すまいと息を潜めた。


「それは派閥の長たる私の責任です……」


 誰かが「そんな」と声を漏らした。

 エレベルは首を振った。


「私は――失敗しません!

 起こりうる、全てのケースを予測して、完璧な準備をする――


 それが、失敗しない理由です」


 そこで一度、言葉を切る。

 皆が見ている。

 フローリアも、眠気を忘れて見ていた。


「ですが――」


 その目が、ほんの少しだけ伏せられた。


「私の周囲は、失敗しました――


 私はそこを読み切れなかった……

 

 読もうとしなかった――」


 静かだった。

 静かすぎて、礼拝堂の窓を叩く雨音が聞こえた。


「よって、筆頭聖女選定を辞退いたします」


 ざわめきが起こる。

 支持者たちはその場に崩折れた。

 それでもエレベルは振り返らない。


 そのまま……

 まっすぐ礼拝堂を出て行った。


 背中だけは、最後まで堂々としていた。


「……格好いいわね」


 思わず、そう漏らした。

 隣でミレーユが頷く。


「負け方まで失敗しないのよ、あの人は――」


「……なんか、ずるいね」


 本当に、ずるい――責任を取って闘いから降ろされたはずなのに……

 どこか、スッキリとやりきった感が見て取れる。


 そうして――

 筆頭聖女レース最初の脱落者が決まった。


 残るは二人――

 腕まくり唯我独尊のベテランと、

 歩く天然医療事故。


 ……急に不安になってきた。

同時期の短編です。こちらもお楽しみいただければ幸いです。


子爵家令嬢は見た!!

〜恋文の差出人は多股令嬢でした〜

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