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平凡聖女、筆頭になるつもりはありません〜神殿は奇跡だけでは回らない 〜  作者: 猫が寝転んだ


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第二幕 「聖女たちの戦争」

毎晩19時40分更新予定です。


お楽しみいただけましたら、★マークの応援をお願いします。

 筆頭聖女選定レース開始から、三日――


 神殿は、早くも面倒くさいことになっていた。


「エレベル様の巡回ルート、変更になりました」


「は……?」


 朝一番、受付係が青い顔で紙を持ってきた。


「北棟ではなく、西棟へ?」


「はい。司祭補佐官からの通達で……」


 私は紙を見て、ため息をついた。

 西棟は軽症患者ばかりだ。


 つまりこれは、“重症患者を治した実績”を積ませたくない誰かの仕業である。


「露骨ねえ……」


 隣でミレーユが笑う。


「もう始まってるのよ、派閥戦争」


「朝からわざわざやることでもないだろうに……」


「こういうのは先手必勝!朝が勝負なの」


 ……知らない知識をまた増やされた。



 昼……

 天気もどんよりしてきた。


 今度は中庭でコリーヌ派とエレベル派の神官が言い争っていた。


「経験こそ正義だ!」

「結果こそ正義です!」


 どちらも正しそうで、どちらも面倒くさい。

 正直、どっちでもいい……


 ちなみにサクラ派はというと――


「サクラ様は将来性があります!」

「具体的には?」

「えっと……若い!」


 他にないのか……

 支持理由が弱過ぎる。


 午後……

 空はいよいよ暗く、今にも雨が降りそうだ。


 今度は治療薬棚の配置が変わっていた。


「……誰よ、こんなことする暇人は――」


 止血草が最上段、消毒酒が地下保管庫、包帯がなぜか礼拝堂横まで移動している。


 著しく仕事がしづらい。


「コリーヌ派の嫌がらせらしいわよ」


 いつの間にか隣にいたミレーユが言った。


「何で知ってるのよ?」


「本人が自慢してた」


「はいっ?自慢するの……?」


「……するのよ、わざわざ。あの人たちは……」


 暇人二十八号か――

 ……いや、何の数字だ、それは。



 さらに翌日……

 空はジトジト雨模様。


 神殿内の掲示板に、妙な貼り紙が増えた。争うように板面を埋め尽くしている。


『エレベル様 治癒成功率九十九・九%!』

『コリーヌ様 勤務年数二十七年!』

『サクラ様 来来への希望!』


 最後だけふわっとしている。


 本人の字だった。

 たぶんサクラだ。


 ……"未来"以前に、まず誤字を直してほしい。



 そして一週間後。


 ついに始まった……


「――神殿筆頭聖女選定トトカルチョ〜!」


 昼休みの食堂で、ミレーユが机を叩いた。


「始めなくていいのに……」

「もう始まってるわよ」


 差し出された紙には、候補者名と倍率が書かれていた。


 エレベル 三・二倍

 コリーヌ 三・八倍

 サクラ  七・五倍


「だから、賭けないって」

「一口だけでいいから」

「嫌――」

「お願い」

「何で私に頼むのよ」

「こういう時、参加しない人がいると盛り上がらないのよ」


 知らんわよ――

 そんな事情には一切関知いたしません。


「一口銀貨一枚」

「高い――」

「将来への投資よ」

「神殿で賭博ってどうなの」

「トトカルチョよ」

「言い換えても駄目――」


 だが、ミレーユは引かない。

 頑固一徹オヤジのようなこの顔は、折れない時の顔だ。

 私は深くため息を吐くと、観念して財布を開いた。


「……一口だけよ」

「毎度〜!」


 渋々銀貨を渡す――

 銀貨一枚あれば、息抜き用の飴玉がいくつ買えると思うのよ……


「……で、誰にする?」

「誰だっていいわよ」

「それじゃ困る〜」

「じゃあ適当に書いてよ――」

「本当に?」

「はいはい」


 私は書類から目を離さず答えた。

 その時、ちょうど包帯の在庫数を数えていた。

 こういう時に話しかけないでほしい。数え間違えたら、アンタにやらせるぞ………


 ミレーユはにやりと笑った。


「――じゃあ、任せてね〜」


 ミレーユは、妙に楽しそうに賭け票へ何かを書き込んだ。


 私は確認しなかった――

 どうせ、大穴狙いでサクラにでも賭けたのだろう。


 ああいう女だ……


 人気どころに素直に乗るより、当たった時に目立って自慢できる方を選ぶに違いない。


 そのうえ、人の金で賭けるのだから、あの女に損はない。


 まあ、銀貨一枚程度なら、平穏な時間の代償としては安いと思おう。


 ――そう思うことにした。くっ……


 少なくとも―― 私には関係のないことだ。


 誰が筆頭になろうと、

 私は明日も治療院に立ち、

 新人の失敗をフォローし、

 足りない包帯を補充する――


 そんな少し退屈な……でもやり甲斐のある毎日の繰り返し――


 それで十分だ。


 ――そう、本気で思っていた。

同時期の短編です。こちらもお楽しみいただければ幸いです。


子爵家令嬢は見た!!

〜恋文の差出人は多股令嬢でした〜

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