↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
388/442

319話 魔弓師フェリ*

 大聖堂の中央では、アベルとハルメルの戦いが続いていた。白銀の魔力と黒い魔力が激しく衝突し、その余波が床や柱を震わせている。


 教皇ファティマはメアにより拘束されたままだ。自己回復術式のある聖女に人質としての意味はない。だからこそ、ハルメルはファティマをメアに任せてアベルとの戦いに身を投じたのだ。


 その周囲では、笛によって操られた聖女たちが次々と魔法を放っていた。彼女たちは意識を失っているわけではない。自分が何をしているのかも、目の前にいる相手が誰なのかも理解している。それでも、身体だけは自分の意思に従ってくれなかった。


「皆さん、気をしっかり持って。少しでも抵抗して下さい!」


 エリスの叫びが響く。しかし、聖女達の身体は言うことを聞かず、ひたすらエリス達に攻撃魔法を放ち続けている。


 アベルも皆の支援に向かいたいと思ったが、目の前のハルメルから視線を外すことはできない。ハルメルが一歩踏み込んだ。その瞬間、床石が弾けるほどの勢いで拳が迫る。アベルは短聖剣で受け流したが、腕には痺れるような衝撃が残った。


(こいつ……強い)


 単純な魔力の強さだけではない。身体能力も戦闘技術も高く、何よりアベルの戦い方を知っている。


「その剣筋……」


 ハルメルが笑う。


「魔王軍では、君についてかなり調べているんだよ」

「……そうかよ」


 アベルは一歩下がりながら短聖剣を構え直す。


「なら、もう少し調べておくんだったな」


 白銀の刃が閃く。

 ハルメルは身体を捻って斬撃をかわし、そのまま反撃へ移った。アベルも身を低くして避け、すぐに距離を取り直す。

 互いに一歩も譲らない。ただし、周りを巻き込んでも構わないハルメルと違って、周りを巻き込むような大技が使えないアベルには、打てる手がほとんど無かった。


(どうする……)


 その時、アベルが視線を向けた先、大聖堂の高い柱、その上にフェリが立っているのが見えた。


 手には弓がある。しかし、いつもの弓とは明らかに違っていた。弓そのものに魔力が流れ、弦を引く手元から淡い風が渦巻いている。


 フェリは静かに息を吸う。


(矢に魔力を乗せるんじゃない。矢そのものを、魔力の通り道にする)


 これまでのフェリは、矢に魔力を纏わせて戦ってきた。風を纏わせ、威力を高め、状況に応じて属性を変える。だが、ファムから教わった魔弓術は根本から違っていた。弓と矢、そして射手自身を一つの術式として繋ぎ、矢そのものを魔力の通路にする。


 フェリが弦を引き絞る。矢の周囲に風が集まり、徐々にその密度を増していく。


挿絵(By みてみん)


「……いける」


 小さく呟いた。狙う相手はハルメル。

 そのすぐ近くにはアベルがいる。少しでも狙いを誤れば、アベルを巻き込む可能性がある。


 フェリは目を細めた。


(大丈夫。アベルなら避けられる)


 信じるしかない。その時だった。アベルの目線が一瞬、フェリを捉えて頷いたのだ。


 不自然なアベルの動きにハルメルが眉をひそめる。


「何をするつもりだ?」


 フェリは、さらに弦を引く。風が収束し、矢の先端に細い魔力の光が集まっていく。それは、以前のような単純な強化ではなかった。矢そのものが、一つの魔法陣になっている。


(もっと遠く)

(もっと深く)


 視界が研ぎ澄まされる。大聖堂の喧騒が遠ざかり、アベルとハルメルの動きだけが異様なほど鮮明に見えた。


 ハルメルが踏み込む。

 アベルが迎え撃つ。

 その瞬間。


「今!」


 フェリが弦を放した。

 矢は風そのものに押し出されるように、一瞬で距離を詰めていく。


 ハルメルが異変に気付いて振り返った。


「――!」


 しかし、遅い。矢がハルメルの肩を捉えた。

 衝撃が走り、ハルメルの身体が大きく揺れる。


「ぐっ……!」


 黒い魔力が一瞬だけ乱れた。

 アベルはその隙を見逃さなかった。


(今だ!)


 短聖剣を構え、一気に踏み込む。

 しかし、ハルメルは反射的に後方へ跳んだ。


「……魔弓か。」


 ハルメルの目が細くなる。


「魔弓……術。」


 ハルメルが呟いた言葉をアベルは繰り返す。それがフェリが使った新しいスキルとは知らなかったものの、ゲームでその存在は見たことがあった。


 ハルメルは肩から矢を抜き、矢が飛んで来た方向を睨みつける。


「なら、もう一本いくよ」


 フェリが再び弦を引く。

 ハルメルの表情から余裕が消えた。


「させるか!」


 黒い魔力が一気に膨れ上がり、大聖堂の床を震わせる。


 ハルメルはフェリを狙うのではなく、再びアベルへ向かって突進した。魔弓を放つためには狙いを定める必要がある。その時間を与えないつもりだった。


 だが、アベルはその動きを読んでいた。


「そう来ると思った」


 短聖剣を構えたアベルにハルメルが迫る。

 フェリは弦を引き絞る。

 互いの動きが、完全に噛み合った。

 アベルがハルメルの攻撃を受け止め、その身体をわずかに横へ流す。その瞬間、ハルメルの身体がフェリの射線へ入った。


 しかし、ハルメルもそれを予測していたのだろう。聖女のうち近くにいた2人をフェリの射線に被るように移動させていた。


 フェリの瞳が鋭くなり、弦が、再び鳴った。


 魔弓師フェリ。


 新たな力を得た彼女の一矢が運命を切り開く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。