↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
381/442

閑話67話 帰り道*

その日の夕方。


 ファムの仕事場から宿屋に向かう帰り道を、フェリとアベルの二人は歩いていた。


 夕暮れの光が木々の隙間から差し込み、フェリの横顔を赤く染めている。


「今日は嬉しそうだったな」

「……うん」

「ファムさんに会えて良かったな。」

「うん。」


 フェリは迷うことなく答えた。


「だって、私のひいお婆ちゃんだから」


 その言葉のあと、少しだけ間が空いた。


「……私ね」

「うん?」

「ファムひいお婆ちゃんって、私にとって特別なんだ」


 フェリは前を向いたまま話し始めた。


「実は私、子供の時のことをあんまり覚えてないんだ」


 幼い頃に両親がいなくなった。


 理由もよく分からないまま、気づけば親戚の家で暮らすことになった。父親の従兄弟にあたる親戚の養女になったのだと、後から聞かされた。


「育ててもらったことには感謝してるよ。食べるものもあったし、寝る場所もあった。悪い人たちじゃなかった。なかったんだけどね……。」


 フェリは少し困ったように笑った。


「でも……なんとなく、居場所がなかったんだ。私とは合わなかったみたい。」


 家族と呼ばれる人たちの中に、自分だけが後から入ったような感覚。何かをしてもらえば申し訳なくなり、何かを頼めば迷惑をかけているような気がした。だから、成長して家を出て、元の生家へ戻った。


「森で狩りをして、採ったものを食べて、足りなかったら町で売って……そうやって暮らしてた」

「一人で?」

「うん」


 フェリは頷く。


「一人なら、誰にも気を遣わなくていいから」


 それは強がりではなかった。少なくとも、当時のフェリにとっては本当にそうだった。


 一人なら、自分がどこにいてもいい。

 自分が何を食べてもいい。

 誰かの顔色を窺う必要もない。

 寂しくないと言えば嘘になる。

 けれど、それでも一人でいる方が楽だった。


「でも、ファムおばあちゃんはその養父母とは違った。なんか、一緒にいて安心したの。」


 ファムはフェリのことを責めなかった。

 親戚の家を出たことも、

 一人暮らしをしていたことも、

 何も責めず、ただ普通に話を聞いてくれた。

 体面とかは気にせず、ただフェリのことを心配してくれた。


 そして帰る時には「またおいで。」と言ってくれた。


「それだけだったんだけどね」


 フェリは笑った。


「でも、それが、すごく嬉しかった」


 アベルは何も言わず、フェリの話を聞いていた。


「ファムおばあちゃんは、私のことを大切にしてくれてるって、ずっと感じてた。」


 フェリは胸元へ手を当てる。


「私が物心ついてから、血の繋がった人にあんなふうに大切にしてもらったのは、たぶん初めてだった」

「……そうだったんだな」

「うん」


 フェリは頷いた。


「だから、ファムひいお婆ちゃんに会えるのは嬉しいんだ」


 しばらく二人で歩く。

 やがてフェリが、ぽつりと言った。


「……私ね」

「うん」

「アベルとも……(家族になれたらいいな)。」


 アベルの足が、ほんの少しだけ止まった。


「ん?なんて言った?」


 フェリは誤魔化すように照れながら、早足で歩きながら言う。


「何でもない!」


 言葉を探すように、少し考える。


「でも、帰ってきたら『おかえり』って言ってもらえて、どこかへ行く時には『いってらっしゃい』って言ってもらえるような……そういう関係って、いいよね。」

「……そうだな。」


 アベルはすぐに答えた。

 フェリは安心したように笑った。


「俺も、フェリが家族みたいにいてくれたら嬉しいけどな」

「……」


 今度はフェリが足を止めた。


「フェリ?」

「……そういうこと、普通に言うんだね」

「え?」

「なんでもない」


挿絵(By みてみん)


 フェリは顔を少し赤くしながら、再び歩き始めた。


「じゃあ、約束ね」

「何を?」

「家族みたいにになるって」

「ああ。」

「絶対だからね」


 夕暮れの森を、二人は並んで歩いていく。


 フェリにとって家(・)族(・)という言葉は、これまで少しだけ遠いものだった。


 けれど今は違う。


 血が繋がっているから家族なのではなく、帰る場所を一緒に作りたいと思える相手がいる。


 そう思えるようになったことが、フェリには何より嬉しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。