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311話 聖女会議(後編)

聖都ヨーゼフの大聖堂内


 エリスの説明が終わると、教皇ファティマは穏やかな眼差しのままエリスに声を掛けた。


「それは大変でしたね……。」

「……え?」


 思いもよらなかった言葉に、エリスが目を見開く。


「聖女エリス……今回の会議に貴女を呼んだ目的は、あなたを裁くことではありません。あなたが何を見て、何を考え、そしてなぜその力を使ったのか。それを、あなた自身の言葉で聞くためです。少なくとも私はそのつもりでした。」


 エリスはしばらく何も言えなかった。胸の奥で固く張り詰めていたものが、ほんの少しだけ緩んでいく。


「……ありがとうございます」


 エリスは小さく頭を下げた。その様子を見ていたアベルも、ほんの少しだけ息を吐く。少なくとも、この会議は最初から結論を決めた裁判ではないらしい。


 だが、聖女の中には反発するものもいた。聖騎士の出立の聖女がエリスに喰ってかかる。


「ですが、どのような事情があろうと、聖女の名を汚したということにかわりないのでは?称号が消えたのが何よりそれを物語っています。」


 ここにいる聖女全員、聖教に聖女候補として見出されて辛く厳しい修行の末に聖女となった者達だった。だからこそ、聖女になることの厳しさも、聖女という存在がヒト族においてどのような存在であるべきかも熟知している。エリスは俯いてしまう。


「ですが、今も聖女の力が使え、その力を正しいことに使うのであれば、聖女と何らかわらないのではありませんか。」


 教皇に次いで最も年上の聖女がエリスを擁護する。他の聖女達は態度を決めかねているようだった。


 そこへアベルが挙手する。


「勇者様。ここは本来、聖女のみの会議です。事情が事情だけに同席は認めていますが発言はご遠慮願います。」


 議長である女教皇がアベルの発言を牽制した所で、傍聴席にいるリシアが立ち上がり、円卓に歩み寄る。次第に、その髪色と目は黄金色に輝き、人外としての存在感を強めていく。


 教皇をはじめ聖女達は全員、リシアの姿をみて目を見開いた。


「光の……精霊様?」


 リシアに宿った光の精霊が重い口を開く。


「当代の聖女達よ。私は光の精霊ミーシア。伝えておきたい事があり、この娘の身体を借りて顕現させてもらっている。」


 聖女全員とエリスは、その場で起立しミーシアを降ろしたリシアに深く頭を下げる。光の精霊は聖教にとって至高神に次ぐ敬うべき存在なのだ。


「よい。面をあげよ。話とは、称号に関するこの世界のルールについてだ。」


 全員がミーシアの一挙手一同足に目を離さないほど集中して傾聴していた。


「この世界で称号は、一度消えてしまうと同じものは2度と付与できない仕組みになっておる。従って、そこの娘が聖女の称号を失ったのであれば、二度と聖女の称号は得られない。たとえ、どれだけ徳を積み直し聖女として相応しい行動を取り続けようともだ。」


 その話を聞いてエリスは絶望的な気持ちになった。もう二度と聖女に戻ることは叶わないことがわかってしまったから。しかし、ミーシアは話を続けた。


「しかし、案ずるな娘よ。聖女という称号が戻ることはないが、正しい行いを続けていれば神が其方を見放すことはない。いつかきっと、聖女に代わる称号を授けてくれるであろう。その日まで精進を続けるがよい。」

「ありがとうございます。ミーシア様……。」


 エリスはポロポロと涙を溢しながらミーシアに頭を下げた。しかし、その心情には先程までのような辛い感情はなく、寧ろ晴々とした気持ちになっていた。


 そして、精霊の気配が消え急に我を取り戻したリシアが慌てて聴講席に戻る。その後は、定型的な申し送りと情報共有が行われ、その日の聖女会議はつつがなく進んだ。


「では、本日の聖女会議はここまでとする。」


 女教皇がそう宣言すると、皆はそれぞれに割り振られた部屋に戻っていった。しかし、女教皇だけはその場に残り、聴講席にいたリシアの隣にいた少女フェリに視線を向けた。


 ゆっくりとフェリに近づき声をかける。


「……ところで貴女。」


 その声に、フェリが顔を上げる。


「はい?」

「少し、こちらへ来て」


 突然名指しされたフェリは、不思議そうにアベルを見る。


「私?」


 アベルも僅かに首を傾げたが、教皇の表情には冗談の気配がなかった。


「う、うん」


 フェリが一歩前へ出る。

 教皇は静かにその顔を見つめた。まるで彼女の姿だけではなく、その身体に流れる血そのものを見極めようとするかのように。やがて、教皇の目が僅かに細められた。


「なるほど」


 そして。


「やはり、そうでしたか」

「……?」


 フェリには意味が分からない。

 アベルも黙って教皇の様子を見つめている。

 教皇はそれ以上、今は何も語らなかった。


 ただ、その視線だけが、フェリ自身すら知らない何かを見抜いているようだった。

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