閑話63話 ルナの想い(2)
ある日の午後。
ルナは研究資料を届けるため、帝国の施設を歩いていた。すると、少し先にアベルの姿が見えた。
「アベル?」
声をかけようとして、足を止める。
アベルの隣には、フェリがいた。
二人は何か話している。
「……」
ルナは立ち止まった。
別に珍しい光景ではない。仲間なのだから、二人で話すことくらいある。それなのに、なぜか足が動かなかった。
「アベル、さっきの話なんだけど……」
「うん」
フェリが嬉しそうに話している。
アベルも楽しそうに聞いている。
「……」
ルナは、少しだけ眉を寄せた。何を話しているのか気になる。どうしてそんなに楽しそうなのかも気になる。
そして、自分でも驚くほど、その場に入りたくなった。
「……私は何をしているの」
小さく呟き、踵を返そうとする。
その時、アベルがこちらを見た。
「あ、ルナ」
「……」
「どうした?」
「資料を届けに来ただけ」
「そうか。ちょうどよかった」
アベルが近づいてくる。
「あとで、ちょっと相談したいんだけど――」
「今、フェリと話しているのでしょう?」
「え?」
「そっちの話が終わってからにしたら?」
「いや、別に大丈夫だけど…。」
「……フェリを待たせてはダメ。」
ルナはそれだけ言って資料を渡した。
「私は研究室へ戻る」
「ルナ?」
「何?」
「……怒ってる?」
「怒ってない」
「でも、なんかいつもより――」
「怒ってない」
「……そうか」
アベルは困ったように笑った。
その顔を見て、ルナはすぐに後悔した。
「……」
自分でも分かっている。
アベルは何も悪くない。
フェリだって何も悪くない。
なのに、自分だけが勝手に不機嫌になった。研究室へ戻ったルナは、椅子に座ったまま深く息を吐いた。
「……これは」
原因を考える。
睡眠不足ではない。
疲労でもない。
研究の失敗でもない。
ならば…
「嫉妬……?」
その言葉が頭に浮かんだ。
「……まさか」
ルナは否定しようとした。しかし、昨日までの自分を思い出す。アベルが他の女性と話していると気になる。自分に向けられた言葉を、他の人にも向けていると少し寂しい。
そして今、フェリと二人で話しているだけで、嫌な気持ちになった。
「……」
ルナは机へ突っ伏した。
「私、嫉妬していたの?」
答えは出ない。けれど、その可能性を否定することもできなかった。しばらくして、扉が開いた。
「ルナ」
「……アベル?」
「さっきは悪かった」
「どうしてアベルが謝るの?」
「いや、なんとなく」
アベルは困ったように笑った。
「でも、ルナが怒ってるなら、ちゃんと理由を聞きたい」
「……」
ルナは顔を上げた。
「怒ってない」
「そうか?」
「……少しだけ、変だっただけ」
「変?」
「うん」
ルナは少し考え、それから小さく笑った。
「私にも、よく分からない」
それが今の精一杯だった。
ただ一つ分かったことがある。自分はもう、アベルのことを「仲間だから」という理由だけでは説明できなくなっている。




