↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢葬屋タック 〜義妹を回復させたければ『勇者』に聞け? ふざけるな!〜 (完結済み)  作者: 堅他不願


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/45

二十七、尋問室のシミ 五

 さすがに、三回目の夢葬はやりたくない。だが、パニーの姿は目にしたい。処刑の瞬間までいあわせたのだから、そのくらいはしないと気がすまなかった。


 階段を降りると、パニーはもちろんいつもと変わらず眠っていた。アコーもいる。


 トラバスのベッドが、空になっている。


「タックさん……トラバスさんが……トラバスさんが……」


 アコーが取りみだすとは。


「いなくなってしまいました!」

「見ればわかる。何が起きたんだ?」


 ここは、店主として威厳を示しつつ、冷静に事態を把握したかった。


「あなた達が連れていかれてからちょっとして、トラバスさんは目を覚ましたんです。ここはどこだって聞かれたから、タックさんのお店の地下室ですと答えました。そうしたら、自分の私物はあるかって聞かれて……」

「ま、まさか……っ」

「私は、私は反対したんです! だって、タックさんから損害賠償されたりしたら大損ですから!」

「微妙にどうでもいい話があるが、とにかく二階に案内したのか!?」

「はい……そうしないと、その……」


 アコーは赤面し、顔を伏せた。


 だいたい想像がつく。ゼニカネには異常なほどこだわるし、衛兵に一歩も譲らず食ってかかる彼女だが、男女の云々には純粋で世間しらずな尼僧だ。


「酷いことはされてないか?」

「何もされてません。ただ、要求を飲まないと、ここのお金を残らず持っていくって……」

「何だ、そんなことか」


 もっと深刻な事態を想像していたのに、拍子抜けした。


「そんなことって何ですか、そんなことって! ここが倒産でもしたら、能率のいい金づるがなくなるんですよ!?」

「あ……まー、その、そうだな」

「だいたいあなたは店主の自覚がなさすぎるんです! もっとお金を出して下さい!」

「いや、それは……」

「賑やかだな」


 呆れはてた口調で、コーダーが論評しながら加わった。


「コーダー、トラバスが……」

「消えたようだな」

「煙じゃありません」

「そういう意味じゃない」


 コーダーは、アコーのつまらないつっこみを断ちきった。


「着のみ着のまま出ていったのか?」

「いえ、二階にある自分の私物を取りもどしてから、出ていかれました」

「私のには手をつけなかったのか?」

「さあ……さすがに、着がえにまで同席できませんし」

「つまり、アコーは私の部屋には入ってない?」

「そうです」

 

 首の皮一枚で助かった……のだろうか? パニーの自作肖像画を他人に見られるのは、苦痛以外の何ものでもない。しかし、トラバスなら……あれほど憎んだにもかかわらず……それほど腹はたたない。


 いやいやいや。トラバスこそ、もっとも見られたくない相手だろう。


『右手の平をご覧なさい』


 不意に、レッタが声をかけた。何もこんな時にとは思ったが、それくらい重要な助言でもある。


 自分にむけて広げた手の平には、トラバスの顔がしっかりと染みこんでいた。


「うわぁっ!」

「どうした、大将!」

「タックさん!」


 腰を抜かしかけて、パニーの寝るベッドの縁に、どうにか手をついた。


「疲れが溜まって限界か?」

「そ、そうじゃない……」


 タックは、自分の身体に起きた新たな変化を二人に直接示した。


「レッタに続いて……」


 コーダーは、顔をしかめて腕を組んだ。


「呪い、ですね……」


 アコーも、深刻に心配そうな表情になっている。


『トラバスは生きているんでしょう? あなたのような残留思念ができる筋あいはないはずです!』

『そうよ。これは残留思念じゃない。いみじくもアコーさんがいうとおり、呪いよ』

『トラバスの!?』

『魔女の』

『ど、どういうなりゆきなんですか!』

『あなたが夢葬を使って真相に近づけば近づくほど、いろんな人間の精神があなたのそれに重なっていくのよ』

『ケードや、ブリドルは? 私の身体には浮かんでないはずです』

『彼らはリネット教徒だから。フィナンは人形だし』

『じゃあ仮に、パニーがリネット教徒でなければ……』

『そうなるかもね』


 叫びたくなるような、髪をかきむしりたくなるような、荒々しく歓喜と失望が合体しては離別する心地だった。


 パニーの精神が、一部なりと合体するのは、神でもないと成しとげられない奇跡だ。毎日自分で自分を抱きしめていたい。しかし、それはあくまで二人きりでの話で、トラバスなど! 右手を斬りおとしてでも絶縁したい。


『今のところ、トラバスの精神があなたに干渉する気配はないわね。でも、いつそうなってもおかしくない』

『それでも、夢葬は中断してはいけないんでしょう?』

『そうよ。パニーを救いたければね』


「呪いでも何でも、パニーの回復に結びつくならどうでもいい。幸い、彼女はまだここにいる」

「トラバスは、目を覚まし次第、ミラー参事会員の元に連れていかねばならんのだぞ」


 コーダーが、シビアな現実を突きつけた。


「私も、それは説明したんです」

「なら、トラバスは無視したのか」


 自分としては、トラバスがどこまで自分勝手なのか、客観的なところを把握しておきたい。


「いえ、じゃあ自分からミラーさんのところへいくって」

「早くいってくれ!」

「説明する前に、コーダーさんが割りこんできたんじゃありませんか!」

「おい、他人のせいにするな」


 コーダーもたまらず反論した。


「事実です!」

「ゼニカネ以外のことになると、お前の説明はいつも要領があやふやだ」

「酷いっ! 私だって、お金の範疇(はんちゅう)で……」

「わかったから、二人ともやめろ」


 二人はそろって口を閉じた。白く冷たい沈黙が、室内を満たした。


 ハーモのような意味での両面性……あるいは多面性……がないのは、二人に共通する美点だ。他人によっては美点に数えないのだろうが、首尾一貫して本音を語ってくれる人間がいるのはありがたい。特に、馬鹿馬鹿しい規則づくめのこの街では。


 トラバスは、明らかにユーバ参事会長側の人間だ。魔女と会って考えが変わったのかもしれないが、それならせめて、自分達が衛兵詰所から帰るのを待つべきだったろう。


 そんな彼が、反ユーバ派のミラーの元へ自分から押しかける……。私情を抑え、トラバスと事情をじっくり交換し、落ちついた状態でノンドに連絡を取るつもりでいたのに。


『右手の平をご覧なさい』


 レッタの呼びかけで、右手を開いた。トラバスが、はっきりと怒った顔になっている。


『あなた、彼のことで、自分にまで嘘をつこうとしたでしょ?』

『私情を抑えてトラバスと話しあう、ということですか?』

『そう。それは嘘だって、彼は思ったのよ。いえ、実在する彼じゃなくて、右手の彼が』

『だからって、本当に怒鳴りあいをしたいわけじゃないです』

『そうね。右手の彼は、ただあなたの本音に触れて、自分も本音を表にしただけ』


 いやな『顔』だ。ほとんど何の役にもたたないばかりか、自分でもごまかしたい自分の本音を逆説的に押しつけてくる。むろん、トラバスにかかわることだけなのだが。


 不意に、閃いた。そうだ、トラバスはいない!


 今なら、今こそ、邪魔のない状態でパニーの夢にいける。


 問題は、自分自身の体調だ。ここにくるまで、いくら何でも三回目はないと確信していた。二階へ寝にいく程度の力しか残ってないと……。そこは、変わってない。


 アコーに頼んで、体力回復の祈祷をしてもらうのも悪くないが、金がかかる。トラバスがどんな不確定要素をもたらすのか不明瞭な以上、出費は極力慎みたい。


 一方で、三回目をすませたあと、どのくらい休まねばならないのか。やってみないとはっきりしない。それに、パニーがどんな影響を受けるのかも未知数すぎる。


 迷っている時間はない。休むか夢葬か。


「コーダー、アコー。パニーに夢葬する」

「大将!」

「タックさん!」


 どう甘く判断しても、無謀な試みだといわんばかりだ。


「こんなタイミングだからこそ、好機を活かしたいんだ。金は、衛兵からの報償に、不足分を店の金庫から出す」

「おお、神よ……気前の良い店主に幸いあれ」

「大将がそこまでいうなら、つきあおう」


 ぐだくだ無駄な会話をしないのは助かる。


 意識を集中するのに、淀みはなかった。およそ楽観にはほど遠い状況だが、かえって開きなおる心境にすらなった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。