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第8話:過剰な解像度(バグ)と、賭けの終わり

【賭市村康介の右目の視力が、この戦いの後に失われる可能性:100%】――味覚を失い、痛覚を失い、ボロボロになりながら辿り着いた学校の屋上。そこで待っていたのは、すべての『視線』を操り、見つめた標的の心臓を圧殺する能力者――高城。「直接覗き込んで、100倍の重さで潰してやるよ!」逃げ場のないタイマンの凝視戦。避ける可能性がゼロならば、正面から睨み返し、世界の光の確率をハッキングするのみ。人間が処理できる限界を超えた『過剰な解像度』で、死神の脳を焼き切る大博打。第2章クライマックス、賭けの終わりが始まる

「バ、バカな……! ガラスを素手で叩き割って、外壁を登ってきた、だと!?」夕暮れの赤い光が差し込む屋上。『集団凝視マルチ・アイズ』の能力者である小柄な男――高城たかじょうは、血まみれの俺を見て、ガタガタと歯を鳴らしながら後退りした。彼の持つタブレットの画面には、校内の全カメラがエラーを起こしたノイズが虚しく走っている。「痛覚がないってのは便利だぜ。恐怖のブレーキが壊れてるから、体が勝手に最速の最短ルートを選んでくれる」俺――賭市村かけいちむら 康介こうすけは、両目から血の涙を流したまま、一歩、また一歩と男へ近づく。破片で裂けた右腕から血が滴っているが、俺の顔は完璧な無表情、そして瞳の奥は冷徹な勝負師のそれだった。「ひっ……! 来るなモブが! 僕の目はまだ死んでいない!」高城が半狂乱で叫び、タブレットを俺に向けた。その瞬間、彼の両目が異常なほど大きく見開かれ、背後のフェンスや空気の中に、再び真っ黒な『目のマーク』のホログラムがブワリと出現する。【現在の視線の数:1 / 100】【生存確率:95.7%】「僕の眼は、直接見つめた相手の心臓を、視線の数に応じた質量で圧殺する! お前一人の目なら、今すぐ直接覗き込んで、100倍の重さで潰してやるよ!」高城の視線が、真っ直ぐに俺の瞳を射抜いた。ドクン、と胸の奥が物理的に重くなる。痛覚はない。だが、心臓の筋肉が強引に押し潰されようとしている「肉体の危機」は本能で理解できた。【現在の視線の数:10 / 100】(高城が俺の肉体を凝視するたび、数値が跳ね上がる)【生存確率:45.2%】「康介、危ない! そいつの目を直接見ちゃダメよ!」遅れて屋上へ駆け上がってきたろうが、悲鳴混じりの声を上げる。だが、俺は逃げない。一歩も目を逸らさない。前髪を跳ね上げ、高城のその異常に肥大化した『眼』を、正面からギチリとにらみ返した。瞳の中で、デジタルカウンターが限界を超えて火花を散らす。「おい死神。お前はたくさんの『目』で世界を見てるよな。カメラの映像、生徒の肉眼、自分の眼。……じゃあさ」脳の奥が焼き切れるような熱を帯びる。味覚、痛覚に続く、次なる代償の足音が聞こえる。だが、構うものか。ここで全てを賭ける(オールイン)。「お前が俺を見つめたこの瞬間、世界の光の粒子が気まぐれを起こして、お前の網膜に『宇宙のすべての原子の配列データ(無限の情報量)』が100%の解像度で流れ込んでくる可能性は、何%だ?」「え……?」【網膜の受光解像度が、確率のバグによって無限大(過剰解像度)になる可能性:0.0000000001%】人間が物を見るとき、目は光を受け取って脳で処理している。もし、その「受け取る光の情報量」が、確率のバグによって一瞬だけ『無限大』になったらどうなるか。「神様……俺のこの『視覚』の半分も、チップとして全部くれてやる。……バグれ、世界の光(解像度)!!」ガギィィィイインッ!!!世界から色と音が完全に消失した。俺の瞳のカウンターが【0.0000000001%】から【100%】へと強引に書き換えられる。直後、高城の視界に、世界を構成するすべての分子、原子、素粒子の動きが、視覚情報として「数千億画素(4Kや8Kを遥かに超える無限の映像)」となって一瞬で脳内へ突き刺さった。「あ、が、あぁぁあああああああああああああああっ!!!!」高城はタブレットを落とし、自分の両目を押さえてのたうち回った。脳の処理能力を完全に超越した「過剰な情報量(解像度)の津波」を喰らい、彼の視覚神経が内側から完全に消し飛んだのだ。周囲に浮かんでいた真っ黒な『目のマーク』が、ガラスが割れるような音を立てて一斉に霧散していく。【現在の視線の数:0】【生存確率:100%】「はぁ、はぁ、はぁ……」勝負はついた。俺は膝をつき、激しい目眩に襲われる。右目の視界が、半分だけ真っ暗な闇に染まっていた。味覚、痛覚に続き、俺は『右目の視力』の可能性を、この大博打の代償として失ったのだ。「いやぁ、人間が処理できる光の確率をハッキングして、脳を情報量で焼き切るか。相変わらずイカれたギャンブルをするねぇ、康介」給水塔の影から、与廼輪年能神が感心したように拍手をしながら現れた。その手には、いつの間にか高城の胸から剥がれ落ちた、真っ二つに割れた『契約のコイン』が握られている。ゲームオーバーの証拠だ。「う、嘘……。僕の、完璧な包囲網が……僕の目が……何も、見えない……」高城は目から血を流し、光を失った瞳でガタガタと震えている。そんな敗者の横を通り過ぎ、俺は立ち上がった。ふらつく俺の身体を、楼がそっと横から支えてくれる。彼女の100%の観察眼が、俺の右目がもう見えていないことを瞬時に見抜いていた。「……バカね、本当に。そこまでして勝って、何が残るっていうのよ」楼の声は怒っていたが、その瞳には、世界の理不尽を力技でへし折った俺への、深い畏怖と信頼が宿っていた。俺は残された左目で、夕焼けに染まる街を見下ろし、不敵に笑ってみせた。「決まってんだろ。次の賭け(ゲーム)に勝つための、可能性が残った」味覚を失い、痛覚を失い、右目の光を失ったモブ。だが、俺の横には、完璧な目を持つ相棒(楼)がいる。世界がどれだけ絶望的な確率を押し付けてこようが、俺たちのギャンブルは、ここからどこまでも加速していく。(第2章・完結 / 第8話・了)

第8話をお読みいただき、本当にありがとうございました!そして、これにて第2章(集団凝視編)が完全完結となります!相手の強力な「視線」の能力に対し、普通のバトルなら目を塞ぐところを、逆に正面から睨み返して『宇宙のすべての原子の配列データが100%の解像度で流れ込む確率:0.0000000001%』を引き寄せて脳を焼き切るという、本作らしい物理のバグを突いた決着を描いてみました。勝率100%と引き換えに、味覚、痛覚に続いて「右目の視力」までチップとして支払ってしまった康介。しかし、その失った右目の視力を、完璧な目を持つ相棒の楼がそっと支えるという、2人のバディ感がより深く繋がるラストのカタルシスを楽しんでいただけていれば幸いです!これで「小説家になろう」でのストックも大充実の全8話(約2万文字)となり、集英社大賞の条件である8万文字に向けて、最高に熱い前半戦の山場を越えることができました [INDEX]。「過剰解像度のトリック、めちゃくちゃ鳥肌立った!」「康介と楼のコンビが尊すぎる、第3章も早く読みたい!」と思ってくださった方は、ぜひ応援をよろしくお願いいたします。下にあるブックマーク追加や、いいね(評価の★★★★★)をポチッと押していただけると、作者の執筆の可能性が100%にロックされて、新章の更新スピードが限界突破します!それでは、さらなる絶望とギャンブルが待ち受ける第3章(第9話)でお会いしましょう!

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