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第7話:凝視の檻と、死角のギャンブル

【現在の視線の数:96 / 100】――あと4個の『目』に見つかった瞬間、俺たちの心臓は内側から握り潰される。学校中の防犯カメラ、窓ガラス、そして操られたクラスメイトの肉眼。逃げ場ゼロの「凝視の檻」の中で、元・死神の相棒――狙厨ねらいず ろうの100%の観察眼が光る。「カメラの型番はS-300。半径三十センチは完全な死角よ!」わずか4.21%の勝機。理科室のハーフミラーを使った光の量子バグと、痛覚を失った俺の「壊れた肉体」をパズルのように噛み合わせ、絶望の包囲網をハッキングしてやる。生存確率1%からの大逆転劇、カウントダウンの始まり

『見ーつけた。賭市村康介、狙厨楼。僕の『目』から逃げられると思うなよ』校内放送のスピーカーから、ノイズ混じりの不気味な男の声が響き渡る。俺とろうは、放課後の無人の廊下を激走していた。だが、逃げ場なんてどこにもなかった。壁の防犯カメラ、窓ガラスに映るスズメの目、廊下の曲がり角――。視界の至る所に、おぞましい真っ黒な『目のマーク』が浮かび上がり、その全てが俺たちの心臓を執拗にロックオンしている。【現在の視線の数:96 / 100】【生存確率:1.05%】視界の端のカウンターが、血の気が引くようなカウントダウンを刻んでいた。あと4個。あと4つの『目』に見つかった瞬間、因果の呪いによって俺たちの心臓は内側から物理的に握り潰される。「康介、こっちよ!」不意に、楼が俺の腕を強く引っ張った。彼女が俺を連れ込んだのは、廊下の天井に設置された防犯カメラの、真真下まつしただった。「動かないで。一歩もよ」ブレザーの制服を乱暴に整えながら、楼の片目がカメラのレンズを鋭く見据える。「あいつは校内の防犯カメラの映像をジャックして視線を送り込んでいるわ。このカメラの型番は『S-300型』。レンズの最大画角は百二十度。つまり、カメラの真下から半径三十センチメートルは――完全なレンズの死角よ」「……!」流れるような空間把握。元・死神としての『100%の観察眼』が、カメラの死にスペースを完璧に弾き出していた。追跡してくる『目のマーク』のスクロールが、96の数値でピタリと止まる。「カメラの首振り周期は4秒。次の死角スポットへ走るわよ。私に続いて。一センチでも画角に入ったら100に達して死ぬわよ!」「ハッ、頼もしいじゃねえか、相棒……!」痛覚のない俺と、完璧な武器を失った彼女。俺たちは、楼が脳内で計算する『100%の安全ルート』という綱渡りを、全力で駆け抜けた。しかし、屋上の支配者は、そんなスマートな逃走を許すほど甘くはなかった。『あはは! 見失っちゃった。じゃあさ、数で殴ればいいよね』スピーカーから声が弾けた直後、校舎の奥から地鳴りのような足音が聞こえてきた。教室で虚ろな目をしていたクラスメイトや教師たち――数十人の人間が、操り人形のようにギチギチと首を回しながら、廊下の両端から津波のように押し寄せてきたのだ。肉眼の嵐。死角なんて、数で踏み潰される。逃げ込んだのは、目の前にあった『理科室』の重い木製扉の奥だった。「ダメよ、前後を囲まれたわ……! 扉を突き破られたら、一瞬で視線が100を超える!」楼が背中で扉を抑えながら、焦燥の声を上げる。現在、視線の数:98。残り、2。「……いや、まだ賭け(クジ)は残ってる」俺は理科室の奥、実験机の上に置かれていた大きなガラス板に目をつけた。光学実験用の『ハーフミラー(マジックミラー)』。光を半分通し、半分反射する性質を持つ特殊な鏡だ。俺はそれを乱暴に引きずり出すと、扉の正面へと立ちはだかるように設置した。前髪を跳ね上げ、血の滲む両目を開く。瞳の中でデジタルカウンターが狂ったように回転を始めた。狙うのは、光の粒子が起こす究極の確率バグだ。【詳細:光の量子的な確率の偏りにより、このハーフミラーが今この瞬間、敵の視線(光)だけを『100%乱反射させて無効化する』可能性:0.00001%】「神様……俺たちのチップごと、この科学のバグに全部乗る(オールイン)!!!」ガギィィィイインッ!!!世界が静止した。その直後、理科室の扉が激しく蹴り破られた。なだれ込んできた全校生徒の無数の『目』が、俺たちを捉える――。――はずだった。「……え?」扉の先頭にいた生徒が、呆然と声を漏らした。ハーフミラーに触れた瞬間、敵の『視線(目のマーク)』のホログラムが、グニャリと万華鏡のように異常な角度で屈折したのだ。光の反射確率が書き換わった鏡の中で、生徒たちの視線は俺たちを通り抜け、お互いがお互いの目を凝視する形へと完全に弾き返された。「あ、ががががががっ!?」校内放送のスピーカーから、屋上の男の絶叫が響き渡る。何百もの目が、鏡のバグによって「お互いを見つめ合う」という無限ループの処理落ち(エラー)を起こし、男の脳へ強烈な精神フィードバックとなって逆流したのだ。生徒たちの動きが、ピタリと人形のように停止する。【現在の視線の数:0】【生存確率:95.7%】勝率4.21%のギャンブル。俺たちは因果の裏をかいて、完全に生き残った。「やった、の……?」楼が目を見開く。「いや、ここからが俺の反撃だ」俺は理科室の窓際に歩み寄ると、右拳を固く握りしめた。そして、目の前にある分厚い窓ガラスに向かって、躊躇なく拳を突き立てた。パリィィィイイインッ!!!激しい音を立ててガラスが粉々に砕け散る。破片が容赦なく俺の皮膚を切り裂き、鮮血が飛び散った。それを見た楼が「なっ、何してんのよ!?」と悲鳴のような声を上げる。だが、俺の顔には、眉ひとつ動かすような気配すらなかった。忘れたか。俺にはもう、痛覚なんてないんだよ。「ガラスの破片が刺さろうが、肉が裂けようが、俺には1ミリのブレーキにもならねえ」それを見た楼が「なっ、何してんのよ!?」と悲鳴のような声を上げる。だが、俺の顔には、眉ひとつ動かすような気配すらなかった。忘れたか。俺にはもう、痛覚なんてないんだよ。「ガラスの破片が刺さろうが、肉が裂けようが、俺には1ミリのブレーキにもならねえ」俺は窓枠に手をかけ、外壁に設置された雨樋あまどいへと身体を躍らせた。痛みのない肉体は、恐怖というリミッターを完全に解除している。血を流しながら、蜘蛛のような速度で垂直の壁を駆け上がり、最上階の屋上へと突き進む。バキィィインッ!!!屋上のフェンスの扉を、俺は血まみれの足で蹴り開けた。そこには、頭を抱えて鼻血を流し、ノイズの走るタブレットを操作している一人の小柄な男がいた。あいつが全校生徒の目を操っていた能力者だ。男が恐怖に引きつった顔で、ゆっくりとこちらを振り返る。夕暮れの赤い光の中、両目から血の涙を流し、全身傷だらけでありながら、完璧に無表情のまま不敵に笑う俺の姿が、男の瞳に映っていた。俺の『可能性の眼』のカウンターが、男の顔面にロックオンされる。「おい、お前。今何個の目で俺を見てる? ――ここからは、俺のギャンブルの時間だ」(第7話・了)

第7話をお読みいただき、ありがとうございました!生存確率4.21%からの大逆転劇、いかがでしたでしょうか?相棒・ろうの元狙撃手としての知識を活かした「カメラの死角計算」から始まり、理科室のハーフミラーを強引に変質させた「光の量子バグによる無限ループ処理落ち」、そして前話の伏線だった「痛覚がないから恐怖のブレーキを外してガラスをぶち破れる」という康介の肉体のバグ……。これまでバラバラだった全ての欠片が1本の美しい勝ちパズルとして繋がる、本作の真骨頂とも言える「世界のハッキング頭脳戦」を全力で描いてみました!血まみれのまま、1ミリも痛そうにせず屋上に現れた康介の姿は、敵からしたら完全にホラーですね(笑)。「伏線の回収が綺麗すぎる!」「康介と楼の連携、最高にスタイリッシュ!」と思ってくださった方は、ぜひ応援をよろしくお願いいたします。画面下のブックマーク追加や、いいね(評価の★★★★★)をポチッと押していただけると、作者の脳内カウンターが100%になって、屋上の能力者との決着回(第8話)の執筆速度が爆速になります!それでは、視線の死神を追い詰める第8話でお会いしましょう!

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