第2話:世界の余白と、消しゴムの味
【賭市村康介が今日、いつものように学校へ行く可能性:100%】――昨日までは、世界はその通りの確率で動いていた。しかし、神様・与廼輪年能神(よのわ としの かみ)から手渡された【可能性】の力は、俺の日常を少しずつ、だが確実に歪めていく。朝、教室のドアを開けた瞬間。俺の『可能性の眼』が映し出したのは、昨日まで隣にいたはずの「大切な存在」が、綺麗に消え去った世界のバグだった。殴り合いのバトルなんて生ぬるい。世界の因果そのものをハッキングする、命がけの第2ゲームが始まります。
「生存確率、0.01%」与廼輪年能神(よのわ としの かみ)がコーラを飲みながら言ったその言葉の意味を、俺は夜の街ではなく、『翌朝の教室』で知ることになった。幼馴染の結衣が、学校に来ていない。それだけならただの風邪だ。だが、おかしいのは周りの反応だった。「ねえ、結衣の連絡先知ってる? お見舞いのメッセージ送ろうと思って」俺がクラスの女子に聞くと、彼女は小首を傾げた。「え? ユイって誰のこと?」背筋に冷たいものが走る。担任に聞いても、クラス名簿を見ても、最初から「結衣」なんて生徒は存在しないことになっていた。世界から、あいつの存在そのものが消えている。「これだよ、康介」いつの間にか、俺の隣の席にジャージ姿の与廼輪年能神が座っていた。他の奴らには見えていないらしい。神様は筆箱から消しゴムを取り出し、机の上に「結衣」と指で書いた文字をキュッキュと消すジェスチャーをした。「他の神様に愛された能力者【概念消去】の仕業さ。あいつに認識された存在は、世界の記憶と歴史から『最初からいなかったこと』にされる。あーあ、結衣ちゃん、生存確率0.01%っていうか、もう存在確率が0.01%だね」「ふざけんな……!」俺は前髪を跳ね上げ、両目を見開いた。瞳の中で、デジタルカウンターが狂ったように逆回転を始める。『可能性の眼』の全開。俺の視界(目の中の詳細テキスト)が、教室の空気そのものをスキャンし始める。【記憶を頼りに結衣を捜索する:0.00%】(世界に手がかりがゼロのため)【神の力で世界を元に戻してもらう:0.00%】(ニート神が働く確率ゼロ)探すんじゃない。世界が「結衣を消した」というなら、その「消去したという事実のバグ」を突く。スクロールする文字の最底辺、机の上の『消しゴムのカス』に視線が止まった。【消しゴムのカスが集まり、偶然原子が再配列されて『結衣のちぎれたシャーペンの芯』になる可能性:0.000001%】世界がどれだけ存在を消そうとしても、物質の保存法則までは完全に誤魔化せない。消された瞬間にそこにいた「残骸」が、確率の隙間に残っているはずだ。「引きずり出すぞ、0.000001%の歴史のバグを……!」俺が両目に血を滲ませて念じた瞬間、机の上の消しゴムのカスがピチピチと生き物のように跳ね、一瞬で一本の黒いシャーペンの芯へと姿を変えた。その瞬間、教室の空間がバリバリッ!とガラスのように割れた。「な、なんだこれ……!?」クラスメイトたちが悲鳴を上げる。世界が「存在しないはずの物質」の出現に矛盾を起こし、修復しようと空間が歪み始めたのだ。割れた空間の裂け目から、真っ黒なコートを着た男が引きずり出されるように現れた。そいつの目元は真っ白な包帯で覆われている。あいつが結衣を消した能力者だ。「バカな……! 私の【概念消去】で消した存在の残滓を、確率操作で物質化させただと!? 世界の因果が歪むぞ!」男が慌てて俺の「シャーペンの芯」を掴んで消そうと手を伸ばす。だが、すでに俺の目は次の確率を捉えていた。【詳細:男が触れた瞬間、男の脳の神経パルスが偶然1ミリ秒だけ逆流し、自分が『自分という概念』を消去してしまう可能性:0.00001%】「神様……俺の全部を、この世界の矛盾に賭ける(オールイン)!!」世界が静止した。俺の瞳のカウンターが【0.00001%】から【100%】へと強引に書き換わる。「あ、が……っ!?」男の手が俺に届く直前、男は自分の頭を抱えて絶叫した。男の能力が暴走し、自分自身の存在を「消去」し始めたのだ。男の身体が足元からサラサラと透明な砂のようになって消えていく。「お前は、一体、何を……っ!」男が完全に消滅した瞬間、弾けたように世界の歪みが元に戻った。「――あれ? 康介、なんでそんな怖い顔してんの?」目の前に、いつの間にか結衣が立っていた。カバンを持って、不思議そうに俺を見つめている。クラスの女子たちも「あ、結衣おはよー!」と普通に声をかけている。世界が巻き戻ったのだ。「……なんでもねえよ。遅刻すんぞ」俺はツッと流れた目元の血を拭い、いつもの死んだ魚の目に戻した。「やるねぇ、康介」後ろから、与廼輪年能神の満足げな声が聞こえる。「敵の能力を逆利用して自滅させるなんて。でもさ、世界のルール(確率)を無理やり捻じ曲げた代償は、ちゃんと君の脳に蓄積されてるからね? 次は、君の『味覚』か『色彩』のどちらかの可能性が消えるかもよ?」神様は楽しそうに、味のしなくなった消しゴムを噛むような仕草をして笑った。俺は小さく舌を出し、不敵に笑ってみせた。「上等だ。世界がバグるのが先か、俺が壊れるのが先か、最後まで賭け続けてやるよ」(第2話・了)
第2話をお読みいただき、ありがとうございました!単なる殴り合いの異能バトルではなく、「世界から消された存在を、消しゴムのカスから確率的にハッキングして復元する」という、少し理系でSFチックな【可能性】のバトルを描いてみました。0.000001%という世界のバグを引き当てた康介ですが、神様・与廼輪年能神(よのわ としの かみ)の言う通り、その代償は着実に彼の肉体を蝕み始めています。次回、康介の「五感」にさっそく異変が……!?「この頭脳戦の展開、ゾクゾクした!」「消しゴムの味ってそういうことか!」と思ってくださった方は、ぜひ作品の応援をよろしくお願いします。画面下のブックマーク追加や、いいね(評価の★★★★★)をポチッと押していただけると、作者の脳内の可能性カウンターが100%になって次回への執筆速度が爆速になります!それでは、第3話でお会いしましょう!




