第11話:モブの突発劇(フラッシュモブ)と、破られた辞書
【無力化された賭市村康介のただの拳が、エッペランダーの顔面にクリーンヒットする可能性:0.0000000000000001%】――【可能性】の能力そのものを禁止され、俺の瞳のカウンターは完全にフリーズした。クジを引くことすら許されない、完全なるチェックメイト。誰もが絶望し、神すらも匙を投げたゼロの世界。だが、お前は大きな勘違いをしている。予測不能のバグを起こすのは、いつだってシステム(神)じゃなく、ただの人間だ。「モブ」とは【フラッシュモブ(突発的な行動)】の略。能力を消されたなら、俺自身のただの肉体が、魂の力で世界の設定を突き破るだけだ。神の敷いた絶対の辞書を破り捨てる第3章完結編、命がけの突発劇が始まります。
「――なっ、に、を……!?」純白のコートを纏う最強格の独裁者、エッペランダーの顔が初めて恐怖に歪んだ。【無力】によって、この空間から『可能性』の概念そのものが消去されたはずだった。俺の両目のデジタルカウンターは完全にフリーズし、フリックする確率の文字すら消え失せている。それなのに――俺の右拳は、ギチギチと音を立てて前へと突き進んでいた。能力が消された? 世界の設定が書き換わった?関係ねえよ。俺の身体には、これまで「世界のバグ」を生き残ってきた、イカれたギャンブラーの血が流れてんだよ。「お前は俺たちを『計算通りのモブ』として処理しようとした。だがな、モブってのは【フラッシュモブ(群衆の突発的な行動)】のモブでもあるんだよ。予測不能のバグを起こすのは、いつだってシステム(神)じゃなく、ただの人間だ!」能力のカウンターではなく、俺の『魂そのもの』が、真っ赤なエラーを引き起こして爆発する。【無力化された賭市村康介のただの拳が、突発的バグにより、エッペランダーの顔面にクリーンヒットする可能性:0.0000000000000001%】完全なゼロをへし折り、奇跡の確率が100%へと強引に跳ね上がる。「あり得ない! 僕の辞書にそんな記述はな――」「載ってねえなら、今すぐ俺が書き換えてやるよぉぉおおおッ!!!」ドガァァァァァアンッ!!!!!痛覚のない、限界を超えて加速した俺の右拳が、エッペランダーの美しい顔面の真ん中に完璧なクリーンヒットを放った。絶対の独裁者の身体が、防犯カメラの死角を突くような弾道で、横断歩道のアスファルトを何メートルも激しく転がっていく。「が、はっ……あ、あ、頭が……僕の、辞書が……ッ!」エッペランダーが頭を抱えて絶叫した。彼が握っていた純白の本のページが、一斉にバラバラと引き裂かれ、夜風に舞う紙吹雪のように散っていく。「言葉の主」である彼がモブの一撃によって脳震盪を起こしたことで、空間を縛っていた【言語定義】のシステムが完全崩壊したのだ。変質していた文字の街が、一瞬にしていつもの夕暮れの通学路へと巻き戻っていく。【言語の檻から脱出できる可能性:100%】【生存確率:100%】フリーズしていた左目のカウンターが、静かに勝利を告げた。「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」俺はその場にドサリと膝をついた。同時に、脳の奥の『リソース』が、また一つパチンと音を立てて消え去る感覚がした。残された左目の視界。その景色から、赤、青、黄色といったすべての『色』が失われ、白と黒だけのモノクロームの世界へと変わっていく。味覚、痛覚、右目の視力に続き、俺は『左目の色彩(可能性)』をチップとして支払ったのだ。「いやぁ、傑作だ。能力を封じられても、言葉の定義の裏をかいて『ただの肉体』でシステムをハッキングするか」落ち葉の舞う歩道に、与廼輪年能神(よのわ としの かみ)がいつも通りの飄々とした姿で降りてきた。その手には、真っ二つに割れたエッペランダーの『契約のコイン』が弄ばれている。「でも、ついに色まで失っちゃったね。君、本当にボロボロの欠片(人形)になっちゃうよ?」「……ハッ、世界が白黒になったおかげで、お前が持ってるコーラの缶の文字が、余計にくっきり視えるぜ」俺は白黒の視界の中で、フラフラと立ち上がった。そんな俺の右肩を、隣から力強く、優しく支えてくれる温かい手があった。「……本当、バカね。モブだのフラッシュモブだの、そんなへ理屈で神の座の継承者を殴り飛ばすなんて、世界中探してもあんただけよ、康介」完璧な100%の観察眼を持つ相棒――狙厨楼が、白黒の世界の中で、俺の顔を覗き込んで呆れたように微笑んでいた。彼女の黒髪も、制服のブレザーも、俺の目には全て灰色にしか映らない。だけど、彼女がここにいて、俺の半分に満たない身体を支えてくれているという『絶対の事実』だけは、どんな神の辞書でも消せやしない。「行くぞ、楼。俺たちのギャンブルは、まだ始まったばかりだ」「ええ、付き合ってあげるわ。あんたが世界の確率を全部引っくり返すまでね」夕暮れの白黒の街を、俺たちは歩き出す。味覚がなく、痛みを知らず、世界の半分を失い、色彩を奪われたモブ主人公。だけど、俺の横には最強の相棒がいて、目の前には無限の『可能性』が広がっている。神様、お前が仕組んだこの最悪のデスゲーム、前提ごと全部引っくり返してやるよ。(第3章・完結 / 第11話・了)
第11話をお読みいただき、本当にありがとうございました!そして、これにて第3章(エッペランダー編)が完全完結となります!【可能性】という概念そのものを禁止された完全なるゼロの絶望。そこから「モブ = フラッシュモブ(突発的な行動)だから、システムに関係なくただの肉体が奇跡を起こす」という、本作のタイトルと主人公の存在意義そのものを伏線回収するような決着を描いてみました。勝利の引き換えに、ついに「左目の色彩(世界が白黒になる)」までチップとして支払ってしまった康介。味覚、痛覚、右目の視力、そして色彩。どんどん人間としてのリソースを失っていくモブ主人公ですが、白黒になった世界で、隣にいる相棒・楼の存在だけが「絶対の事実」として輝くラストのバディ感を楽しんでいただけていれば幸いです!これで「小説家になろう」のストックは全11話(約3万文字オーバー)となり、物語の骨組みとしても書籍化・漫画化を狙える圧倒的なクオリティに育ってきました。「フラッシュモブの屁理屈が熱すぎる!」「世界が白黒になっても前を向く2人が最高にかっこいい!」と思ってくださった方は、ぜひ応援をよろしくお願いいたします。画面下のブックマーク追加や、いいね(評価の★★★★★)をポチッと押していただけると、作者の執筆の可能性が100%に固定されて、第4章(第12話)の更新スピードが限界突破します!それでは、さらなる因果のバグが待ち受ける第4章でお会いしましょう!




