# エピソード ## 「祭りの終わり、黒き雪」
# エピソード
## 「祭りの終わり、黒き雪」
冬花火が、夜空で弾ける。
──パァァァン……
綺麗だった。
なのに。
その奥に見えた“黒い光”だけが、
異様だった。
春は目を細める。
「……なんだ、あれ」
結衣も不安そうに空を見る。
アリアの黒銀の羽根が、
ざわりと揺れた。
『嫌な感じがする』
その時。
街の中央で悲鳴が上がった。
「きゃぁぁぁぁ!!」
全員が振り向く。
祭り会場のランタンが、
次々と黒く染まっていた。
青い光が消える。
金色の光が消える。
代わりに。
黒い雪が降り始めた。
リリィが震える。
「これ……深淵ですぅ……!」
ミアが杖を構える。
「最悪のタイミングね……!」
すると。
空が裂けた。
──バキィッ!!
黒い亀裂。
そこから、
巨大な影が降りてくる。
人々が逃げ惑う。
「魔物だ!!」
「逃げろ!!」
雪祭りは、一瞬で地獄になった。
春は剣を抜く。
虹色の光が走る。
「みんな、避難誘導!!」
レオナが笑う。
「祭り壊すとか趣味悪ぃな!!」
アリアは空を睨んでいた。
その瞳が揺れる。
『……あれ』
結衣が気づく。
「アリアさん?」
アリアは小さく呟いた。
『深淵六王……』
空から降りてきたのは、
巨大な黒い狼。
全身が闇でできている。
雪へ降り立つだけで、
街が凍っていく。
その背中へ乗っていた。
黒いコートの男。
銀色の長髪。
そして。
赤い瞳。
男は街を見下ろし、
退屈そうに言った。
──『随分楽しそうだな』
空気が凍る。
アリアの顔色が変わった。
『……ヴァルグ』
春が振り向く。
「知ってるのか?」
アリアは小さく頷く。
『深淵六王、第三位』
『“黒雪”のヴァルグ』
その名前だけで、
周囲の空気が重くなった。
ヴァルグは、
ゆっくり春たちを見る。
そして。
止まった。
赤い瞳が、
アリアを捉える。
数秒沈黙。
そのあと。
ヴァルグが、笑った。
──『……生きていたか、失敗作』
空気が凍りつく。
結衣がアリアを見る。
アリアは俯いていた。
黒銀の羽根が、
小さく震えている。
春の目が変わった。
「今、なんて言った?」
ヴァルグは興味なさそうに言う。
──『そいつは、深淵が作った兵器だ』
──『感情を持つ必要のない、“器”だった』
アリアの肩が震える。
祭りの灯りが消えていく。
街の人々は怯えている。
その中で。
春だけが、
真っ直ぐヴァルグを睨んでいた。
「だからなんだ」
ヴァルグ。
『……?』
春は一歩前へ出る。
「アリアは仲間だ」
「それ以外に、何がいる」
その瞬間。
アリアの瞳が揺れた。
ヴァルグは数秒黙る。
それから。
少しだけ笑った。
──『なるほど』
──『面白い』
次の瞬間。
巨大黒狼が咆哮。
──ガァァァァァァァ!!!!
街中へ黒雪が吹き荒れる。
春が叫ぶ。
「結衣!!」
結衣も前へ出た。
「咲いて──Promise Bloom!!」
金色の花が、
黒雪を押し返す。
リリィが杖を掲げる。
「みんな守るですぅ!!」
レオナが剣を抜く。
「祭りの続きは、勝ってからだ!!」
そして。
アリアは空を見上げた。
怖い。
震える。
でも。
春が隣に立っていた。
結衣もいる。
一人じゃない。
アリアはゆっくり羽を広げる。
黒銀の羽根が、
雪の夜へ舞い上がった。
『……もう、逃げない』
その瞬間。
ヴァルグの赤い瞳が、
初めて少しだけ鋭くなった。




