三人は、新しい旅路へ歩き出した。
──パリン。
巨大な黒い眼が、夜空の中で砕け散った。
黒い破片は、まるで灰みたいに風へ溶けていく。
静寂。
さっきまで世界を覆っていた圧迫感が、嘘みたいに消えていた。
川の流れる音だけが響く。
誰も、すぐには動けなかった。
リリィがぽかんと口を開ける。
「……勝ったですぅ?」
レオナが力なく座り込む。
「うそだろ……マジで……」
ミアも呆然としていた。
「深淵王の端末を……消し飛ばした……?」
ゼルヴァは静かに剣を収める。
「……奇跡だな」
だが。
春はその場へ膝をついた。
「っ……!」
限界だった。
魔力も、体力も、全部使い切った。
結衣が慌てて駆け寄る。
「春くん!!」
春は笑おうとする。
「へーき……」
全然平気じゃない。
結衣は半泣きだった。
「もう! 無茶しすぎ!!」
春は苦笑する。
「ごめんって……」
その時。
ふわり、と。
誰かの羽が、春へ触れた。
アリアだった。
黒銀の翼が、優しく春を包む。
アリアは少し俯きながら、小さく言った。
『……ありがとう』
春が顔を上げる。
アリアはまだ少し泣きそうだった。
『助けてくれて』
『信じてくれて』
春は笑う。
「仲間だろ」
アリアの瞳が揺れる。
その言葉。
ずっと欲しかった。
結衣も優しく笑った。
「これから、よろしくね」
アリアはしばらく黙っていた。
それから。
本当に小さく笑う。
壊れそうで。
でも、綺麗な笑顔だった。
『……うん』
その瞬間。
第二の鍵が、再び光り始めた。
──パァァ……
水色の光が空へ広がる。
すると。
空中へ、新しい紋章が現れた。
三つ目の鍵の位置。
遠い。
ずっと北。
雪と星の光が見える。
エリシアが静かに呟く。
「……星雪の国ルミナス」
ミアが地図を開く。
「かなり遠いよ」
「しかも、深淵六王の本拠地に近い」
空気が少し重くなる。
だが。
春は立ち上がった。
ふらつきながらも。
結衣が慌てて支える。
「だから無茶しないでってば!」
春は少し笑う。
「支えてくれるなら平気」
結衣の顔が真っ赤になる。
「そ、そういうの自然に言うのずるい!!」
レオナが爆笑する。
「もう付き合えぇぇ!!」
「違うって!!」
アリアはその光景を見て、少し目を丸くしていた。
こんなふうに笑い合う時間。
知らなかった。
ずっと。
戦うことしかなかったから。
リリィがアリアの手を引っ張る。
「アリアさんも来るですぅ!」
『え……』
「みんな仲間ですぅ!」
アリアは戸惑う。
でも。
結衣も笑って頷いた。
「一緒に行こう」
春も笑う。
「歓迎する」
その瞬間。
アリアの胸が、また熱くなった。
泣きそうになる。
でも。
今度の涙は、苦しくなかった。
夜空には、星が広がっていた。
深い闇の先。
それでも。
小さな光は、ちゃんと輝いている。
春は空を見上げる。
その隣へ、結衣が並ぶ。
さらに反対側へ、アリアも立った。
一人じゃない。
その暖かさを感じながら。
三人は、新しい旅路へ歩き出した。




