巨大な黒翼が、夜空を覆い尽くした。
巨大な黒翼が、夜空を覆い尽くした。
──ゴォォォォ……
空気が軋む。
川の水が逆巻き、木々が吹き飛ばされる。
アリアは苦しそうに胸を押さえていた。
黒い鎖が身体へ食い込み、血が滲む。
『ぁ……ぁぁ……!!』
その姿を見て。
結衣の胸が締め付けられた。
怖い。
でも。
それ以上に、苦しそうだった。
春は剣を構えながら叫ぶ。
「アリア!!」
アリアの紅い瞳が、一瞬だけ春を見る。
涙が浮かんでいた。
『来ないで……』
次の瞬間。
黒い闇が爆発する。
──ドォォォォン!!
衝撃波。
全員が吹き飛ばされる。
「きゃぁっ!」
結衣が倒れそうになる。
だが。
春がすぐ支えた。
「大丈夫か!?」
「う、うん……!」
でも。
アリアの様子がおかしい。
身体がどんどん黒く染まっていく。
まるで。
深淵そのものになっていくみたいに。
ゼルヴァが険しい顔をする。
「深淵王が無理やり力を流し込んでいる……!」
ミアが青ざめる。
「このままじゃ、自我が消える!」
結衣はアリアを見る。
苦しそうだった。
助けてって、叫んでるみたいだった。
その時。
アリアの視線が、結衣へ向いた。
『……なんで』
震える声。
『なんで、そんな顔するの』
結衣は涙目のまま答える。
「放っておけないから」
アリアの瞳が揺れる。
結衣は一歩前へ出た。
春が止める。
「結衣!」
「大丈夫」
本当は怖い。
足も震えてる。
でも。
春が隣にいる。
だから進める。
結衣はアリアへ向かって叫ぶ。
「一人で苦しまなくていい!!」
その瞬間。
結衣の星花紋章が、強く輝いた。
金色の花びらが舞う。
優しい光。
アリアの黒い鎖が、少しだけ緩む。
アリアが目を見開く。
『……あったかい』
その声は。
壊れそうなくらい弱かった。
だが。
空の奥から、低い声が響く。
──『邪魔をするな』
全員が凍りつく。
声だけで、世界が震えた。
空間が裂ける。
そこから現れたのは。
巨大な“黒い眼”。
空いっぱいを埋め尽くすほどの、異形の瞳。
リリィが泣きそうになる。
「な、なにあれぇぇ……!」
エリシアの顔色が真っ白になる。
「深淵王……!」
圧倒的な威圧感。
存在しているだけで、心が押し潰されそうだった。
黒い眼は、春を見下ろす。
──『世界樹の継承者』
──『なぜ抗う』
春は震えながらも、前へ出た。
「苦しんでる人を放っておけないからだ!」
深淵王が静かに嗤う。
──『愚か』
黒い鎖が、さらにアリアを締め付ける。
アリアが悲鳴を上げた。
『ぁぁぁぁぁ!!』
結衣が叫ぶ。
「やめて!!」
だが。
深淵王は止まらない。
──『感情は弱さだ』
──『愛は壊れる』
──『絆は裏切る』
その言葉に。
春は結衣を見る。
結衣も、春を見ていた。
怖い。
傷つくかもしれない。
でも。
それでも。
一緒にいたいと思えた。
春はゆっくり結衣の手を握る。
「……壊れるかもしれない」
結衣の瞳が揺れる。
春は続けた。
「でも」
「だからって、誰かを好きになるのやめたくない」
結衣の胸が熱くなる。
涙が滲む。
春は少し照れながら笑った。
「結衣が隣にいてくれるの、嬉しいから」
その瞬間。
結衣の顔が真っ赤になる。
でも。
もう逃げなかった。
結衣は春の手を、ぎゅっと握り返す。
「……私も」
小さな声。
でも。
ちゃんと届いた。
「春くんと一緒にいたい」
その瞬間。
二人の紋章が、今までで最も強く輝いた。
──パァァァァァァァ!!!!




