二人の紋章が、今までで一番強く輝いた。
黒く染まった水面。
そこから現れた巨大な水竜は、苦しそうに咆哮した。
──グォォォォォ!!
水しぶきが空へ舞う。
川が暴れ狂ったみたいに揺れていた。
リリィが春の後ろへ隠れる。
「おっきいですぅぅ!!」
レオナは逆にテンションが上がっている。
「ドラゴンだぁぁ!!」
「喜ぶな!!」
ミアが叫ぶ。
だが。
竜の様子がおかしい。
身体中へ、黒いコードが絡みついていた。
まるで苦しめるように。
結衣は胸を押さえる。
「……痛い」
春が振り向く。
「結衣?」
結衣の瞳には涙が浮かんでいた。
「この子……泣いてる」
春はハッとする。
竜の咆哮。
怒りじゃない。
苦しみだ。
ゼルヴァが剣を抜く。
「侵食率が高い。暴走寸前だ」
エリシアも険しい顔をしていた。
「第二の鍵ごと、深淵に呑まれかけてる」
その瞬間。
水竜が暴れた。
巨大な水流が春たちへ襲いかかる。
──ドォォォン!!
春が叫ぶ。
「散開!!」
全員が飛び退く。
水が地面を削り飛ばした。
威力が異常だ。
結衣は息を呑む。
怖い。
でも。
逃げたくない。
春は前へ出ている。
だから。
結衣も、隣へ立つ。
結衣は杖を握る。
胸元の花飾りが、優しく揺れた。
春が気づく。
「結衣、無理するなよ」
結衣は少しむっとする。
「もう守られてばっかりじゃないもん」
春が少し驚いて。
それから笑った。
「……頼もしくなったな」
その言葉だけで。
結衣の胸が、また熱くなる。
嬉しい。
認めてもらえるのが。
その時。
水竜が再び咆哮した。
黒い水柱が空へ立ち上がる。
ミアが叫ぶ。
「来る!!」
だが。
結衣は前へ出た。
春が驚く。
「結衣!?」
結衣は震えていた。
でも。
ちゃんと笑っていた。
「大丈夫」
そして。
小さく深呼吸する。
《Promise Field》
金色の花が、足元へ咲いた。
優しい光。
黒い水が、少しずつ浄化されていく。
水竜の苦しそうな瞳が揺れた。
『……ア……』
結衣は必死に叫ぶ。
「もう少しだから!!」
春はその背中を見る。
強くなった。
最初は泣きそうだったのに。
今は誰かを救おうとしてる。
その姿が、眩しかった。
春は自然に笑っていた。
すると。
結衣がちらっと振り向く。
「……なに?」
「いや」
春は少し照れながら言う。
「かっこいいなって」
結衣の顔が真っ赤になる。
「〜〜〜っ!!」
リリィが飛び跳ねる。
「言ったですぅぅぅ!!」
レオナが大爆笑。
「天然タラシだこいつ!!」
春が慌てる。
「え!? なんで!?」
結衣は顔を隠した。
心臓がうるさい。
でも。
嫌じゃない。
むしろ嬉しい。
その時だった。
水竜の身体から、巨大な黒槍が飛び出した。
──ズドォォォ!!
春の目の前。
結衣へ一直線。
「結衣!!」
春が咄嗟に飛び出す。
そして。
結衣を抱き寄せた。
──ドン!!
衝撃。
春の背中へ、黒槍が掠める。
「っ……!」
結衣の顔色が変わる。
「春くん!!」
春は歯を食いしばる。
でも。
倒れない。
結衣を守るみたいに抱きしめたまま、立っていた。
結衣の胸がぎゅっと痛くなる。
また。
自分を守って傷ついた。
結衣は震える声で言う。
「なんで……!」
春は苦笑する。
「体が勝手に動いた」
結衣の目に涙が溜まる。
もう嫌だった。
春が傷つくの。
苦しそうなの。
結衣は春の服をぎゅっと掴む。
そして。
泣きそうな声で呟いた。
「……もう、そんなふうに無茶しないでよ」
春は少し驚く。
結衣は俯いたまま続けた。
「春くんが傷つくと、私……すごく苦しい」
静かな声。
でも。
本音だった。
春の胸がドクンと鳴る。
その時。
二人の紋章が、今までで一番強く輝いた。




