春も笑った。 「ああ!」
数日後。
春たちは、“水鏡の街アクエリア”へ向かう街道を歩いていた。
空は青く。
風も穏やか。
久しぶりに、戦いのない時間だった。
レオナは荷車の上で寝転がっている。
「平和だぁぁ……」
ミアが呆れる。
「昨日まで死にかけてた人のセリフとは思えない」
リリィは花冠を編んでいた。
「結衣さん、これ似合うですぅ!」
「わっ、かわいい……!」
結衣が笑う。
その笑顔を見て、春も少し笑った。
本当に、よく笑うようになった。
最初は、不安そうだったのに。
今は仲間たちと自然に話している。
その姿を見るだけで、春は少し嬉しかった。
その時。
ガタッ。
荷車が大きく揺れた。
「うわっ!?」
結衣がバランスを崩す。
落ちる──。
と思った瞬間。
春が咄嗟に腕を掴んだ。
「危ない!」
結衣はそのまま春の胸へ倒れ込む。
──ぎゅっ。
近い。
すごく近い。
結衣の顔が一瞬で真っ赤になる。
「わ、わわっ……!」
春も固まる。
心臓がうるさい。
レオナが即座に反応した。
「おぉぉぉ!?」
ミアが吹き出す。
「またやってる」
リリィは大興奮。
「ラブコメですぅぅぅ!!」
「違うからぁぁ!!」
結衣は慌てて離れる。
でも。
春の服を掴んだままなのに気づいて、さらに赤くなる。
春も照れながら笑った。
「……大丈夫?」
結衣は顔を隠す。
「だ、大丈夫……」
でも。
少しだけ嬉しかった。
春に支えてもらえるのが。
その後。
一行は小川のそばで休憩を取ることになった。
透き通った水。
小さな魚。
風が気持ちいい。
リリィは靴を脱いで水遊びしている。
「冷たいですぅぅ!」
レオナまで飛び込んだ。
「うぉぉぉ気持ちいい!!」
ミアが頭を抱える。
「子どもか!」
春は木陰へ座って、水筒を飲んでいた。
すると。
結衣が隣へ来る。
「……ここ、いい?」
「もちろん」
二人で川を眺める。
静かな時間。
水の音だけが聞こえる。
結衣はそっと呟いた。
「なんか、不思議」
「ん?」
「前まで普通の高校生だったのに」
結衣は空を見る。
「今、異世界で旅してる」
春は少し笑う。
「確かに」
結衣も笑った。
それから。
少しだけ真剣な顔になる。
「……でもね」
「うん」
「前より、“今”の方が好きかも」
春が少し驚く。
結衣は照れながら続けた。
「怖いことも多いけど」
「ちゃんと誰かと繋がってる感じがするから」
春の胸が温かくなる。
春も同じだった。
孤独だった世界が、少しずつ変わっている。
仲間がいて。
笑い合えて。
誰かが、自分を待ってくれる。
それが、こんなに嬉しいなんて知らなかった。
春は小さく笑う。
「俺も」
結衣が見る。
春は少し照れながら続けた。
「結衣たちといる今の方が、好きだ」
結衣の心臓が跳ねる。
顔が熱い。
もうダメだった。
好き。
ちゃんと、好きになってる。
でも。
まだ言えない。
怖いから。
もし壊れたらって思うと、勇気が出ない。
結衣は誤魔化すように川を見る。
その時。
春が突然立ち上がった。
「ん?」
春の表情が変わっている。
真剣。
ゼルヴァも空を見上げた。
「……気づいたか」
空気が変わる。
静かな風。
でも。
その奥に、嫌な魔力。
次の瞬間。
小川の水面が、真っ黒に染まった。
──ゾワァァ……
リリィが震える。
「なんか出ますぅぅ!!」
水面が盛り上がる。
そして。
巨大な“何か”が現れた。
水でできた竜。
だが。
瞳は深淵みたいに黒い。
ミアが顔色を変える。
「嘘……!」
エリシアが険しい顔で呟く。
「第二の鍵の守護竜……」
だが。
竜は苦しそうに暴れていた。
黒いコードに侵食されている。
春は剣を握る。
結衣も杖を構えた。
さっきまでの穏やかな時間が、一瞬で戦場へ変わる。
でも。
今度は違う。
結衣はもう、逃げていなかった。
春の隣へ並ぶ。
そして、小さく笑う。
「……行こっか」
春も笑った。
「ああ!」




