「うるさい!!!」
暴走を始めた男の身体が、黒く膨れ上がっていく。
──ゴォォォォ……
黒い蔦。
黒い翼。
無数の赤い目。
もう、人の姿じゃなかった。
少女が震える。
「いや……」
春はその声を聞いて、剣を握り直した。
怖い。
でも。
助けを求める声を、見捨てたくなかった。
結衣が春を見る。
春も視線を返す。
言葉はない。
でも。
気持ちは同じだった。
助けたい。
その瞬間。
二人の紋章が、静かに共鳴した。
今までみたいな激しい光じゃない。
もっと優しい。
暖かな光。
結衣は小さく呟く。
「……苦しいんだよね」
暴走した男が唸る。
『ガァァァァ……!!』
でも。
その奥に。
泣きそうな声が混ざっていた。
春は前へ出る。
「結衣」
「うん」
「やろう」
結衣は頷く。
怖い。
でも。
春がいるから、大丈夫。
結衣は胸元の花飾りへ触れる。
春がくれた、小さなお守り。
それだけで勇気が出た。
結衣は杖を握りしめる。
春も剣を構える。
すると。
世界樹剣と星杖が、同時に淡く光り始めた。
《感情同期──安定化》
《新術式、生成》
魔導書のページへ、新しい名前が浮かぶ。
《Twin Bloom》
ミアが目を見開く。
「融合術式……!?」
エリシアも驚いていた。
「二人の心が完全に重なってる……」
春は深呼吸する。
そして。
結衣へ手を差し出した。
結衣は少しだけ驚く。
でも。
すぐに笑って、その手を握った。
暖かい。
その瞬間。
──パァァァァァ……
森いっぱいへ、光の花が咲いた。
虹色と金色。
二つの光が混ざり合う。
暴走した男が苦しそうに叫ぶ。
『アァァァァ!!』
黒いコードが暴れ出す。
だが。
今度の光は違った。
優しい。
包み込むような光。
結衣が涙目で叫ぶ。
「もう一人で苦しまなくていい!!」
春も剣を振る。
「戻ってこい!!」
巨大な光が、男を包み込む。
──ズァァァァァ!!
黒い蔦が、少しずつ消えていく。
赤い瞳が揺れる。
『……タス……ケ……』
春は叫ぶ。
「助ける!!」
その瞬間。
世界樹と星花の光が、さらに強く重なった。
森の花々が一斉に咲く。
風が吹く。
暖かな光が、男を包み込んだ。
そして。
──パリン。
何かが砕ける音。
男の身体を縛っていた黒いコードが、全部消えた。
巨大だった身体が、ゆっくり縮んでいく。
黒い翼も崩れ落ちる。
最後に残ったのは。
傷だらけの、一人の青年だった。
青年は力なく地面へ倒れる。
春が駆け寄った。
「おい!」
青年は薄く目を開ける。
赤かった瞳は、普通の灰色へ戻っていた。
そして。
震える声で呟く。
「……なんで、助けた」
春は少し笑う。
「助けたかったから」
青年は呆然とする。
そんな答え、予想してなかったみたいに。
結衣も隣へ来る。
「もう大丈夫だよ」
青年の瞳が揺れる。
暖かい。
怖くない。
そんな感覚、もう忘れていた。
青年の目から、涙がこぼれた。
「……あったかい」
その光景を見て。
結衣の胸がぎゅっとなる。
春はまた、誰かを救った。
傷つきながら。
必死になりながら。
でも。
ちゃんと誰かの心を救ってる。
結衣は小さく笑った。
やっぱり。
春くん、すごいな。
その時。
春がふらっとよろけた。
「……あ」
結衣の顔色が変わる。
「春くん!?」
無理をしすぎた。
魔力切れ。
春は倒れかける。
だが。
結衣が慌てて抱き止めた。
近い。
すごく近い。
春はぼんやり結衣を見る。
「……結衣?」
結衣は半泣きだった。
「ほんと無茶ばっかり……!」
春は少し笑う。
「でも、結衣が支えてくれるし」
結衣の心臓が止まりそうになる。
「……っ!」
顔が真っ赤になる。
レオナが遠くで叫ぶ。
「はい甘ぁぁぁい!!」
「うるさい!!!」




