二人は同時に頷く。
『黙れ、人間共がァァァ!!』
空いっぱいへ展開される、巨大な深淵魔法陣。
黒雷。
黒槍。
闇の花弁。
全部が混ざり合い、空そのものが崩れ始めていた。
ミアが叫ぶ。
「森ごと飲み込まれる!!」
リリィは涙目で結界を張っている。
「むりですぅぅぅ!!」
ゼルヴァも剣を抜いた。
「全員、備えろ」
だが。
春は少女を抱えたまま、前を見ていた。
怖い。
圧倒的な力。
でも。
隣には結衣がいる。
それだけで、不思議と立てた。
結衣も同じだった。
春が隣にいる。
それだけで、逃げたくなくなる。
結衣は小さく深呼吸する。
胸元の花飾りを握る。
そして。
春を見る。
春も気づいて、視線を向けた。
ほんの一瞬。
戦場なのに。
二人だけの静かな時間みたいだった。
結衣が小さく笑う。
「……あとで、また手当するね」
春が少し驚く。
それから、照れくさそうに笑った。
「じゃあ、ちゃんと生き残らないとな」
結衣の胸がドキッと鳴る。
そんなこと自然に言うの、ずるい。
でも。
嬉しかった。
その時。
少女が春の服をぎゅっと掴く。
震えている。
春は優しく言った。
「大丈夫」
「……ほんと?」
「ああ」
春は笑う。
「絶対助ける」
その言葉には、不思議な力があった。
少女の震えが少しだけ止まる。
結衣はその姿を見て、胸が熱くなった。
春はいつもこうだ。
誰かの不安を、自分の言葉で軽くしてしまう。
だから。
みんな、春の隣にいたくなる。
結衣も。
その一人だった。
その瞬間。
男が巨大な黒槍を振り下ろした。
──ゴォォォォ!!
空間が裂ける。
春が叫ぶ。
「結衣!!」
結衣も叫ぶ。
「うん!!」
二人の紋章が爆発的に輝いた。
虹色と金色の光。
感情が重なる。
守りたい。
失いたくない。
一緒にいたい。
全部が力へ変わっていく。
《感情共鳴率──限界突破》
《Bloom Heart・Second》
結衣の魔導書が、自動でページをめくる。
そして。
新たな術式が浮かび上がった。
《Promise Field》
結衣が息を呑む。
「これ……」
でも。
なぜかわかった。
どう使えばいいか。
結衣は杖を掲げる。
「みんなを……守る!!」
──パァァァァァァ!!
巨大な金色の花畑が、森いっぱいへ広がった。
花々が咲く。
優しい光。
暖かな風。
その瞬間。
降り注いだ黒槍が、花へ触れた途端、次々と浄化されていく。
レオナが叫ぶ。
「うおぉぉ!? なんだこれ!!」
ミアも驚愕する。
「結界型浄化術……!?」
リリィが飛び跳ねる。
「綺麗ですぅぅぅ!!」
春は結衣を見る。
結衣は必死だった。
額に汗。
震える手。
でも。
折れてない。
春は胸が熱くなる。
強くなった。
結衣はもう、“守られるだけ”じゃない。
その時。
男が初めて焦った。
『馬鹿な……深淵を浄化しているだと!?』
エリシアが静かに笑う。
「愛されてますね、結衣さん」
「えっ!?」
結衣の顔が真っ赤になる。
春まで赤くなる。
「い、今そういう話!?」
レオナが爆笑した。
「余裕出てきたなぁ!!」
だが。
次の瞬間。
男の身体へ、黒いコードが浮かび上がった。
『……ガ……』
ゼルヴァの顔が変わる。
「まずい、暴走する!」
男は苦しそうに頭を押さえる。
『止マレ……』
でも。
深淵が侵食していく。
身体が膨張し始めた。
森が震える。
少女が怯える。
「やだ……」
春は剣を握った。
倒すだけじゃない。
助けたい。
その想いが、再び世界樹を輝かせる。
そして。
結衣も、春を見る。
もう迷ってなかった。
二人は同時に頷く。




