春たちは一斉に顔を上げた
翌朝。
春は妙な視線を感じて目を覚ました。
「……ん?」
薄く目を開ける。
すると。
真正面に、結衣の顔があった。
「っ!?!?!?」
春が飛び起きる。
結衣もびくっとする。
「きゃっ!?」
春は顔を真っ赤にした。
「な、なんでこんな近いんだよ!?」
結衣も負けないくらい赤い。
「ち、違っ! 起こしに来ただけで……!」
その時。
後ろからレオナの声。
「お、朝チュンか?」
「違うからぁぁぁ!!」
広場に叫びが響いた。
リリィが目をキラキラさせる。
「仲良しですぅぅ!」
ミアは呆れ顔。
「朝から元気だねぇ……」
ゼルヴァは無表情でお茶を飲んでいた。
「平和だな」
春は頭を抱えた。
「絶対面白がってるだろみんな……」
結衣は恥ずかしくて春を叩く。
「春くんが変な声出すから!!」
「俺のせい!?」
でも。
みんな笑っていた。
昨日まで命懸けだったのに。
こうして笑える時間がある。
それだけで、少し救われる。
その後。
一行は旅支度を始めていた。
最初の鍵が眠る場所。
《花霧の森》。
そこへ向かうためだ。
ガルドが巨大な荷物を抱えてくる。
「食料よし! 工具よし! 爆弾よし!」
ミアが叫ぶ。
「最後いらない!!」
レオナは武器を磨いている。
リリィはお菓子を大量に詰め込んでいた。
「おやつ大事ですぅぅ」
その横で。
結衣は魔導書を抱えながら、少し不安そうだった。
春が気づく。
「どうした?」
結衣は少し迷ってから、小さく言った。
「……みんなみたいに戦えないなって」
春は首を傾げる。
「昨日すごかったじゃん」
「でも、あれ勝手に魔法出ただけだし……」
結衣は俯く。
「私、まだ何もできない」
その声は弱かった。
春は少し考える。
そして。
腰の小袋から、小さな花飾りを取り出した。
白い花。
昨日、焚き火の近くで作っていたものだった。
結衣が目を丸くする。
「え?」
春は少し照れながら言う。
「お守り」
「……!」
「結衣、頑張りすぎるから」
春は笑った。
「怖くなったら、それ見ろ」
結衣は花飾りをそっと受け取る。
暖かい。
胸がぎゅっとなる。
「……手作り?」
「まぁ、うん」
結衣の顔が真っ赤になる。
リリィが遠くで騒ぐ。
「プレゼントですぅぅぅ!!」
レオナも爆笑。
「青春してんなぁ!!」
春が慌てる。
「違うって!!」
でも。
結衣は嬉しそうだった。
花飾りを大事そうに胸へ抱く。
そして。
小さな声で呟いた。
「……絶対なくさない」
春は少し照れくさくなる。
その時だった。
ルナが突然、耳をピンと立てた。
「……来る」
空気が変わる。
ゼルヴァの目が鋭くなる。
森の方角。
花霧の森から、巨大な魔力が流れてきていた。
しかも。
今度は、悲鳴みたいな気配。
結衣の魔導書が震える。
ページが開く。
そこへ浮かぶ文字。
《第一の鍵、暴走開始》
ミアの顔色が変わった。
「暴走!?」
次の瞬間。
森の奥から、巨大な光柱が空へ立ち上がった。
紫色。
花びらが嵐みたいに舞っている。
エリシアが険しい顔になる。
「……間に合わなかった」
春が剣を握る。
「何が起きてる?」
エリシアは静かに答えた。
「第一の鍵が、“誰か”に奪われかけています」
風が吹く。
花びらが舞う。
そして。
森の奥から、少女の叫び声が響いた。
「いやぁぁぁぁぁ!!」
春たちは一斉に顔を上げた。




