『その絆が、深淵を超える瞬間を』
黒花が空から降り続ける。
街が崩れ。
人々の悲鳴が響く。
春は世界樹剣を振るい、降り注ぐ黒花を斬り払っていた。
──ズァァン!!
だが。
数が多すぎる。
ミアたちも防御に回っている。
レオナが叫ぶ。
「キリねぇぞ!!」
リリィは必死に回復魔法を飛ばしていた。
「みんな頑張るですぅぅ!!」
その中で。
結衣は春を見ていた。
春は前へ出続けている。
誰かを守るために。
傷つきながらでも。
黒花が春の肩を掠めた。
──ザシュッ。
「っ……!」
春が少しよろける。
結衣の顔が青くなった。
「春くん!!」
胸が苦しくなる。
怖い。
春が傷つくたび、自分の心まで痛かった。
でも。
春は振り返って笑う。
「大丈夫!」
全然大丈夫そうじゃない。
肩から血が流れてる。
なのに。
また前へ出る。
結衣は唇を噛んだ。
悔しい。
守られてばっかりだ。
その時。
昔の記憶が浮かぶ。
高校の教室。
放課後。
誰もいない窓際で、春が一人ノートを書いていた。
結衣は何気なく聞いた。
「なに書いてるの?」
春は少し恥ずかしそうに笑った。
「物語」
「異世界とか好きなの?」
「うん」
その時の春は、どこか寂しそうだった。
クラスでは浮いていた。
夢ばかり語る変わり者。
でも。
春は諦めなかった。
誰に笑われても。
一人で頑張っていた。
結衣は、その姿をちゃんと覚えていた。
だから。
今の春を見ると、胸が熱くなる。
夢見てた世界で。
本当に誰かを守ってる。
ボロボロになりながら。
立ち続けてる。
結衣は杖を握った。
震えている。
怖い。
でも。
逃げたくなかった。
「……私も」
小さな声。
でも。
確かな想い。
「春くんの支えになりたい」
その瞬間。
星花の紋章が、優しく光った。
ヴェルナの瞳が揺れる。
『……想いの増幅』
結衣の魔導書が開く。
ページに、新しい文字が浮かび上がった。
《感情共鳴術式》
《エモーション・リンク》
結衣は春を見る。
春も気づいて振り向いた。
「結衣?」
結衣は涙目だった。
でも。
笑っていた。
「一人で頑張りすぎ」
春が目を見開く。
結衣は続ける。
「もっと頼ってよ」
「……っ」
「春くん、いつも“守る側”ばっかりじゃん」
その声が。
まっすぐ胸へ刺さる。
春は気づいてしまった。
自分はずっと。
一人で背負おうとしてたんだって。
結衣は杖を胸へ抱く。
「私は……春くんに助けられてばっかりだった」
「でも」
涙を拭く。
そして。
勇気を出して笑った。
「今度は、私が隣にいるから」
その瞬間。
春の世界樹紋章が強く輝いた。
虹色の光。
結衣の金色魔力と重なっていく。
二人の感情が、繋がる。
怖い。
寂しい。
守りたい。
大切。
全部が混ざっていく。
春は胸が熱くなった。
こんなふうに。
誰かが、自分を支えたいって言ってくれるなんて。
思ってなかった。
春は少し笑う。
「……ありがとな」
結衣の顔が真っ赤になる。
「う、うん……!」
レオナが遠くで叫ぶ。
「青春してる場合かぁぁ!!」
その瞬間。
巨大な黒花が春たちへ落下してきた。
ヴェルナの声が響く。
『ならば見せろ』
『その絆が、深淵を超える瞬間を』
春と結衣は同時に前を向く。
そして。
手を重ねた。




