「花霧魔法、見せてあげますね♪」
春の思考が止まる。
「……え?」
エリシアはにこにこしていた。
まるで「今日いい天気ですね」くらいの軽さで、とんでもないことを言った。
「ですから、結婚してください♡」
結衣が固まる。
「はぁぁぁぁ!?」
レオナが腹を抱えて笑う。
「モテ期きたぁぁぁ!!」
「来てない!!」
春は全力で否定した。
ミアは頭を抱える。
「なんで鍵探しが恋愛イベントになってるの……」
リリィは目をキラキラさせる。
「恋のお話ですぅぅ!!」
ゼルヴァは真顔だった。
「帰るか」
「逃げないで!?」
エリシアは春へ近づく。
ふわり、と花の香り。
紫色の瞳が細くなる。
「ずっと待ってたんですよ?」
春は混乱する。
「いや、初対面だよな!?」
エリシアは小さく笑う。
「でも、“世界樹”の気配は昔から知ってます」
その瞬間。
春の胸の紋章が微かに光った。
結衣がむっとする。
なんか距離近い。
しかも美人。
しかも急に求婚。
意味がわからない。
結衣は春の袖をぐいっと引っ張った。
「……春くん」
「ん?」
「この人ほんとに知らないの?」
「知らないって!」
エリシアはその様子を見て、くすっと笑った。
「仲良しですね」
結衣が真っ赤になる。
「ち、違います!!」
レオナがニヤニヤ止まらない。
「青春だなぁ〜」
「うるさい!!」
その時だった。
エリシアの笑顔が、ふっと消える。
彼女は空を見上げた。
紫色の花びらが舞う。
風が冷たくなる。
ゼルヴァが剣へ手を置いた。
「……来るぞ」
次の瞬間。
──ズズズズズ……
広場の地面から、黒い蔦が這い出した。
人々が悲鳴を上げる。
「きゃあああ!!」
蔦は生き物みたいに暴れ回る。
しかも。
先端には“赤い目”がついていた。
リリィが涙目になる。
「気持ち悪いですぅぅ!!」
ミアが雷を放つ。
──バチィ!!
だが。
蔦は再生した。
「再生!?」
エリシアが静かに呟く。
「深淵植物……」
彼女の瞳が鋭くなる。
「もうここまで侵食されてるんですね」
春が剣を抜く。
「みんな、住民を!」
レオナが笑う。
「了解!!」
ユナたちが避難を始める。
だが。
その時。
巨大な黒花が広場中央へ咲いた。
──ゴォォ……
花が開く。
その中心には、“人”がいた。
黒い鎧。
赤い瞳。
そして。
背中には、折れた黒翼。
男はゆっくり顔を上げる。
『……発見』
春たちへ視線が向く。
結衣の魔導書が警告音みたいに震えた。
《危険度:極大》
ミアの顔色が変わる。
「嘘でしょ……」
ゼルヴァも険しい顔になる。
「深淵騎士」
男はゆっくり剣を抜いた。
黒い瘴気が溢れる。
『星花の巫女を回収する』
結衣が震える。
春は前へ出た。
だが。
その瞬間。
エリシアが春の前へ立つ。
春が驚く。
「エリシア?」
彼女は静かに微笑んだ。
「婚約者候補を傷つけさせません♡」
「候補になった覚えない!?」
その瞬間。
エリシアの足元へ、巨大な紫花魔法陣が展開された。
花びらが嵐みたいに舞う。
そして。
彼女は微笑みながら、恐ろしいことを言った。
「花霧魔法、見せてあげますね♪」




