その夜
その夜。
クロノアの街は、久しぶりのお祭りみたいに賑わっていた。
深淵王との戦いが終わった祝い。
そして、新しい仲間──結衣の歓迎会でもある。
広場には灯りが並び。
屋台からはいい匂い。
音楽まで流れていた。
結衣はまだ状況についていけてなかった。
「異世界ってもっと暗い感じじゃないの!?」
レオナが肉を頬張る。
「うまけりゃ正義だ」
「その理論なに!?」
春は笑った。
少し前まで、命懸けで戦ってたのに。
こうして笑ってる。
それがなんだか、不思議で嬉しかった。
リリィがジュースを持って飛んでくる。
「結衣さん! 飲むですぅぅ!」
「ありがとう、リリィちゃん」
リリィは嬉しそうに回る。
「ちゃん付けされたですぅぅ!」
ミアは呆れていた。
「単純……」
その時。
広場の中央で、ガルドが叫んだ。
「本日の主役ぅぅ!! 春ぅぅぅ!!」
春が嫌な予感をする。
「え?」
次の瞬間。
──ドン!!
巨大な樽が置かれた。
レオナがニヤリと笑う。
「飲め」
「嫌な予感しかしない!!」
ゼルヴァが腕を組む。
「逃げるな」
「なんで協力してるの!?」
結衣が笑いを堪えていた。
春は顔を赤くする。
「笑うなよ!」
でも。
結衣は久しぶりに、心から笑っていた。
学校では。
こんな春を見たことなかった。
少し暗くて。
夢ばかり語って。
周囲から変わり者扱いされていた春。
だけど今は。
みんなの中心にいる。
誰かを守って。
誰かに信頼されて。
本当に、“主人公”みたいだった。
その時。
花火が空へ上がった。
──パァァァン!!
結衣が目を輝かせる。
「綺麗……」
虹色の花火。
まるで世界樹みたいだった。
春も空を見る。
すると。
少し離れた場所に、一人で座るゼルヴァが見えた。
春は飲み物を持って近づく。
「一人か?」
ゼルヴァは空を見たまま答える。
「騒がしいのは苦手だ」
春は隣へ座った。
しばらく沈黙。
花火の音だけが響く。
そして。
ゼルヴァが小さく呟いた。
「平和だな」
春は笑う。
「ああ」
でも。
ゼルヴァの横顔は、どこか寂しそうだった。
春は聞く。
「……まだ何か気になるのか?」
ゼルヴァは少し黙る。
そして。
空を見る。
「深淵王は消えた」
「うん」
「だが、“門”は残っている」
春の表情が変わる。
結衣の魔導書に映った、巨大な扉。
ゼルヴァは静かに続ける。
「奴はただの先兵かもしれん」
空気が冷える。
春は拳を握った。
まだ終わってない。
その時だった。
広場の中央で、突然悲鳴が上がった。
「きゃぁぁぁ!!」
春たちが振り向く。
結衣だった。
彼女の魔導書が暴走している。
金色のページが高速でめくれる。
ミアが叫ぶ。
「魔力暴走!?」
結衣が苦しそうに胸を押さえる。
「うぅ……!」
春は駆け寄る。
「結衣!!」
その瞬間。
魔導書のページに、文字が浮かび上がった。
《第二の門、開放開始》
全員が凍りつく。
ゼルヴァが立ち上がる。
「まずい」
次の瞬間。
空が割れた。
──バキィィィン!!
夜空へ巨大な亀裂。
その向こう。
無数の赤い瞳が、こちらを見ていた。
リリィが震える。
「……いっぱいいるですぅ」
結衣が涙目になる。
「な、なんでぇぇぇ!?」
春は剣を抜く。
空から。
黒い影たちが、次々と降ってきた。
そして。
亀裂の奥から、一つの巨大な眼が現れる。
深淵よりも深い闇。
その眼が、春を見た。
『……見つけた』
低い声。
世界が震える。
ゼルヴァが険しい顔で呟く。
「来るぞ」
春は空を睨む。
平和は終わった。
でも。
もう逃げない。
仲間がいる。
守りたい世界がある。
春は世界樹剣を握りしめた。
そして、新たな戦いの幕が上がった。




