本当の最後
黒い霧が押し寄せる。
まるで世界そのものを呑み込む闇だった。
──ゴォォォォ……
歯車が腐食する。
空間が悲鳴を上げる。
リリィが震えながら叫ぶ。
「飲み込まれますぅぅ!!」
レオナが炎を放つ。
「燃えろぉぉ!!」
──ドォン!!
だが。
炎さえ黒へ侵食される。
ユナの蒼い斬撃も、ミアの雷弾も、霧の中へ消えていった。
ミアが歯を食いしばる。
「効かない……!」
深淵王の無数の目が、不気味に光る。
『無駄だ』
『私は終焉』
『全ては深淵へ還る』
その声を聞くだけで、心が重くなる。
怖い。
立っているだけで、絶望しそうだった。
でも。
春は前へ出る。
世界樹剣を握る。
「終わらせない」
深淵王が笑う。
『一人で何が出来る』
春は静かに答えた。
「一人じゃない」
その瞬間。
背後から、暖かな光が重なった。
ゼルヴァ。
黒花魔力。
レオナの炎。
ユナの蒼光。
アイリスの黒花。
ミアの雷。
リリィの精霊光。
ノアの蒼白い機械光。
全部が、世界樹へ繋がっていく。
巨大な虹色の花が咲いた。
深淵王の目が揺れる。
『……何故』
春は叫ぶ。
「繋がるからだぁぁ!!」
世界樹が脈打つ。
虹色の根が、空間いっぱいへ広がった。
腐食された歯車を包み込む。
壊れた場所を修復していく。
深淵王が初めて苛立ちを見せた。
『やめろ』
黒い霧が荒れ狂う。
無数の黒腕が春へ襲いかかる。
ゼルヴァが前へ出た。
「行け!!」
黒花剣が閃く。
──ズバァァァ!!
黒腕を斬り裂く。
レオナが笑う。
「全部まとめて吹き飛ばす!!」
炎槍が爆発。
ユナは超高速で敵を切り刻む。
ミアが雷撃を放つ。
「春!! 前だけ見て!!」
春は頷いた。
そして。
オメガを見る。
まだ苦しんでいた。
黒いコードに縛られている。
春は走る。
深淵王が怒号を響かせた。
『させぬ!!』
巨大な闇槍が放たれる。
その瞬間。
ノアが前へ出た。
「春を……!」
ノアの機械紋章が輝く。
蒼い障壁。
──パァァン!!
闇槍を弾き返した。
ノアが苦しそうに膝をつく。
「うぅ……!」
春は叫ぶ。
「ノア!!」
ノアは涙を流しながら笑った。
「行って……!」
春は歯を食いしばる。
そして。
オメガの元へ辿り着いた。
オメガは苦しそうに呟く。
『……何故』
春は迷わなかった。
「仲間だからだ!!」
世界樹剣を掲げる。
虹色の光が咲く。
狙うのは、オメガじゃない。
その胸へ絡みつく、黒いコード。
春は叫んだ。
「切り離す!!」
深淵王が絶叫する。
『やめろォォォォォ!!』
黒い霧が暴走する。
空間崩壊。
アーク・ギア全体が揺れる。
それでも。
春は止まらない。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
世界樹剣が、限界まで輝いた。
《世界樹解放》
虹色の巨大な花が咲く。
そして。
──ズァァァァァァァン!!!
一閃。
黒いコードが、切断された。
その瞬間。
深淵王が悲鳴を上げる。
『ァァァァァァァ!!!』
オメガの身体から、黒い闇が吹き出した。
赤い瞳が、本来の銀色へ戻っていく。
そして。
オメガは春を見た。
初めて。
本当に、優しい目だった。
『……ありがとう』
その瞬間。
深淵王が完全な姿を現した。
巨大。
惑星みたいな黒い怪物。
無数の目が春たちを睨む。
『許さぬ』
世界が震える。
深淵王は、怒っていた。
本当の最後の敵として。




