最後の戦いが、始まった。
中枢空間が静まり返る。
オメガの胸部コア。
そこへ絡みつく、無数の黒いコード。
まるで生きているみたいに脈打っていた。
春は目を見開く。
「なんだよ……あれ」
ノアが震える声で呟く。
「《深淵接続》……」
ミアも顔色を変える。
「そんな……まだ残ってたの!?」
ゼルヴァが低く言う。
「古代文明の禁忌技術か」
黒いコードは、オメガの心臓へ食い込んでいた。
まるで操り糸。
オメガの身体が苦しそうに震える。
『……やめろ』
その瞬間。
コードが暴走した。
──ギギギギギ!!
オメガの瞳が赤黒く染まる。
空間全体が揺れた。
『排除』
『排除』
『排除』
声が壊れていく。
ノアが叫ぶ。
「オメガ!!」
だが。
返事はない。
代わりに。
中枢空間の奥。
巨大な暗黒ゲートが開いた。
──ゴゴゴゴゴ……
そこから。
“何か”が現れる。
巨大だった。
黒い霧。
無数の赤い目。
機械でも、生物でもない。
見ているだけで頭が痛くなる。
リリィが震える。
「な、なんですかぁぁ……」
ゼルヴァの表情が変わった。
「……深淵王」
春が息を呑む。
「深淵王?」
黒い存在が笑う。
いや。
空間そのものが笑ったみたいだった。
『見つけた』
低く、不気味な声。
『世界樹』
その瞬間。
黒い霧が伸びる。
春へ一直線。
ゼルヴァが前へ出る。
「下がれ!!」
──ドォォォォン!!
黒花結界が展開される。
だが。
黒い霧は結界を侵食していく。
ゼルヴァが歯を食いしばった。
「っ……!」
春が叫ぶ。
「ゼルヴァ!?」
深淵王が笑う。
『魔王』
『懐かしいな』
ゼルヴァの瞳が揺れる。
春は気づく。
知ってる。
こいつを。
深淵王は無数の目をゼルヴァへ向けた。
『また失うのか?』
空気が凍る。
ゼルヴァの顔が険しくなる。
黒花魔力が揺らいだ。
春はハッとする。
精神攻撃。
深淵王は、心を揺さぶってくる。
レオナが怒鳴る。
「ゼルヴァ!! 飲まれるな!!」
その瞬間。
オメガが苦しそうに叫んだ。
『……逃げろ』
全員が見る。
オメガは震えながら、必死にコードを抑えていた。
『こいつは……世界を喰う』
深淵王が笑う。
『だからこそ美しい』
黒い霧が広がる。
歯車が腐食していく。
アーク・ギアそのものが飲み込まれ始めた。
ミアが青ざめる。
「まずい!! この空間ごと侵食される!!」
ノアが涙を流す。
「オメガ!!」
オメガは苦しそうに春を見た。
赤い瞳。
そこにはもう、冷たい機械の色はなかった。
『……頼む』
その声は。
一人の、孤独な存在の願いだった。
『私を……止めてくれ』
春は剣を握る。
迷いが走る。
倒すのか。
救うのか。
その時。
世界樹剣が優しく光った。
──パァ……
フローラの声。
──春。
セレスも続ける。
──救ってください。
春はゆっくり顔を上げる。
そして。
オメガを真っ直ぐ見た。
「助ける」
全員が春を見る。
春は叫んだ。
「オメガも、世界も、全部助ける!!」
深淵王が笑う。
『出来るものか』
その瞬間。
黒い霧が津波みたいに押し寄せた。
春は世界樹剣を構える。
虹色の光が咲く。
そして。
最後の戦いが、始まった。




