黒花のシルエットだけが、静かに浮かんでいた。
「今度は落ちますぅぅぅ!!」
──ギギギギギ!!
機械竜の巨体が傾く。
赤い光が暴走し、鋼鉄の翼が崩れ始めた。
空中レールの上を、巨大な破片が降り注ぐ。
「避けろ!!」
ガルドが列車を急旋回させる。
スカイライン・ゼロが火花を散らしながら傾いた。
春は空中で、落ちていく少女──ノアを見た。
彼女は意識がない。
このままじゃ。
春は迷わなかった。
「春!?」
ゼルヴァの声。
だが。
春は機械竜へ飛び込んでいた。
崩壊する鋼鉄の中へ。
熱風。
爆発。
赤い警報。
それでも春は進む。
「ノア!!」
少女の手を掴む。
その瞬間。
機械竜の内部から、大量の黒いコードが伸びた。
まるで生き物みたいに。
春へ絡みつく。
「うわっ!?」
『世界樹エネルギー確認』
『再接続開始』
春の胸の紋章が無理やり引き寄せられる。
痛み。
頭へ大量の情報が流れ込んだ。
機械都市。
実験。
泣いている子供たち。
そして。
巨大な機械玉座。
そこに座る、銀色の人影。
──オメガ。
冷たい声が響く。
『世界樹継承者』
春は歯を食いしばる。
「お前……!」
オメガの赤い瞳が光る。
『解析対象として確保する』
次の瞬間。
コードが春を飲み込もうとした。
だが。
──ズバァァァ!!
蒼い斬撃。
ユナだった。
「春を離せ!」
コードが切断される。
レオナが炎を放つ。
「燃えろぉぉ!!」
爆炎。
コードが焼き払われる。
ミアの雷弾が機械竜内部を撃ち抜いた。
「春!! 早く!!」
春はノアを抱きかかえる。
だが。
機械竜は完全に崩壊寸前だった。
『墜落まで10秒』
リリィが泣きそうになる。
「間に合いませんですぅぅ!!」
その時。
ゼルヴァが静かに前へ出た。
黒花魔力が広がる。
「全員、列車へ戻れ」
春がハッとする。
「ゼルヴァ?」
ゼルヴァは機械竜を見上げた。
「こいつを止める」
ミアが目を見開く。
「正気!?」
あの巨体を。
一人で。
だが。
ゼルヴァは小さく笑った。
「元魔王を舐めるな」
次の瞬間。
黒花が夜空いっぱいに咲いた。
巨大。
まるで空を覆う花畑。
ゼルヴァは片手を掲げる。
「《黒花重界》」
──ドクン。
世界が重く沈んだ。
崩壊していた機械竜の動きが、止まる。
空中で固定された。
リリィが目を丸くする。
「止めたぁぁ!?」
だが。
ゼルヴァの額から血が流れる。
春は気づく。
無茶してる。
春は叫ぶ。
「戻れ!!」
ゼルヴァは振り返らない。
「先に行け」
空の上。
遥か彼方。
巨大機械都市アーク・ギアが見えていた。
オメガの本拠地。
ゼルヴァが低く呟く。
「お前たちが進め」
春は歯を食いしばる。
悔しい。
でも。
今止まれば、全部無駄になる。
ノアを抱えながら、春は叫んだ。
「絶対戻ってこい!!」
ゼルヴァは少しだけ笑った。
「誰に言ってる」
その瞬間。
機械竜が大爆発を起こした。
──ドォォォォォォォン!!!
黒花が夜空を包む。
スカイライン・ゼロが全速力で空中レールを駆け抜ける。
春は振り返る。
爆炎の中。
黒花のシルエットだけが、静かに浮かんでいた。




