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第75話 混迷の森に散る命

予想だにしていなかった事態に、ルネイは混乱していた。目の前に脅威が迫る。


……なぜ魔術が発動しない!!


再度、聖言を唱える。

飛びかかってくる爪。

鳥肌が立ち、足が震える。


……間に合わない


瞬間、首が熱く熱を持った。

目の前に、赤い霧が舞う。

続いて駆けてくる猫獣人族の集団に蹴られ、跳ばされ、踏まれる。

仰向けに倒れ、喉から空気が抜けていく。


目に映るのは、空、崖、そこに銀色を靡かせる人影。

その人影は、手を拡げ、周囲を煌めかせている。


……あれは……、神…か…


ルネイの目から光が消えた。



ルネイの首から赤い血が噴き出したとき、ダラン男爵もまた、魔術が発動しない事に混乱していた。

だか、迫りくる猫獣人族の集団に、保身を優先する。

「私の元に、集まれ!押し止めろ!」


集まってくる部下達が、次々と大地に伏していく。


……クソッ!なぜ魔術が発動せんのだ!


背の曲がった部下、ドルイドが近づいてくる猫獣人族を斬り伏せる。


「旦那ァ!早く魔術を!ヤバイですぜ!」


「わかっとる!だが!」


……発動せんのだ!!


少しずつ部下が集まってくる。壁ができダラン男爵に余裕が出てきた。


「下がるぞ!立て直しだ!」


少しずつ、森の方に下がっていく。

屈辱、怒り、困惑

ダラン男爵は足元に転がる死体を蹴りとばす。


その時下がる動きが止まった。


「旦那ァ!後ろからも猫どもが来た!なんとかしてくれえ!!」



ダラン男爵から少し離れた位置でホーバスは同じ様に魔術が使えない事に戦慄していた。

が、ホーバスは、戦場で同じ経験があった。


魔術が飛び交う戦場の最前線では、時折、こういう事があったのだ。

戦場で長く生き残ってきた、下っ端の魔術師の間では、魔術に必要な何かが消費されるというのは、常識だ。


……しかし、なぜこのタイミングなんだ!!


魔術が使われているわけではなかったのに。

考え込みそうな意識を振りはらい、剣を抜く。


今、優位に立っているのは人狩りではなく、猫獣人族だ。


「まとまれぇ!孤立するなぁ!」


奇しくも同じ指示がダラン男爵からも出されていた。迷った仲間達が、次々と猫獣人族の爪と牙に切り裂かれていく。


「クッソったれぇ!戦場帰りをなめんじゃねぇ!」


飛びかかってくる猫獣人族を斬り捨てながら吠える。迫りくる勢いは止まらない。


仲間が一人、また一人と欠けていく。

もう、周りには10人もいない。


迫りくる猫獣人族は、数える事ができない。


彼我の戦力の差に、ホーバスは絶望する。

戦意の喪失。

降伏は認められるのか。


剣を落とし、両手をあげる。


「降伏す………」


全て言い終わる前に、ホーバスの首が跳んだ。

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