第76話 支配の終わり
眼下に繰り広げられる惨劇。
最初に倒れた男は、最期に何を想ったのか。
人が死んでいく。
猫獣人族も人族も。
自分の決断がこの状況を作った。
作ってしまった。
今自分を襲っているのは、その重すぎる罪に対する罰なのかもしれない。
マナを掌握しようとしたその瞬間から、ミリアの身体にかかる負荷。
本来自由であるはずの流れを押し止める無謀な所業。それは川の激流に身を置くのに似て、ミリアを引き裂き、押し潰そうとしてくる。
地面を踏みしめてなお震える足
食いしばる歯の隙間から鋭く息を吐き、吸う
膨れ上がり脈打つ血管
割れるような頭痛
時折、マナを引きちぎられそうな感覚に呻き声がもれる。
……これじゃ……長くは持たない…ッ!
戦いはまだ続いている。
人狩りの集団、まとまっている所に、相当の手練れがいるのか、次々と猫獣人族の男達が斬られていく。
その中には、ミリアを殴った男もいた。
呼吸のたびに、鼻から、口から血が噴き出る。
……もう少し…もう少し…。
開いた指が、意識せず引き攣ったように痙攣し始めた。
「みんな……ごめ……お願い………」
祈るような呟き。
ミリアは膝から崩れ落ちた。
戦況は硬直の様相を示し始めた。
人狩りの指揮官らしき男のそばの背が曲がった男が想像以上に強い。
何人も斬られている。
フレッドも何度も斬られそうになっては飛び退いていた。
あいつをなんとかしなければ、この戦いは終わらない。逃がせばまた人狩りの脅威にさらされ続けるのだ。
「フレッド!後は頼む!」
横から、ミリアを殴った男、リリオが飛び出していった。
「やめろ!リリオ!」
制止の声をあげながら追いかける。しかしリリオは止まらない。
手を拡げ飛びかかるリリオの胸に剣が振り下ろされる。
斬られる、が、拡げた手が男の腕を捉える。
ほんの一瞬。それが決定的な隙となる。
横から牙を剥き出しにした仲間が、その男の首に食いつき、捻り上げた。
倒れ伏すリリオと背の曲がった男。
……リリオはまだ動いている!
リリオの安否を確認するのは、後でいい。
あの指揮官。あいつを仕留める。
もうあいつを守るやつはいない!
跳ぶ。あの首に爪をかければ終わりだ!
フレッドが爪を振りかぶったその瞬間。
地面から立ち上がった雷に身体を貫かれた。
「グァ!!………ガガガ」
周りの仲間も一様に雷に打たれ、動きが止められた。
……あと少し…あと少しだ!動け!
地面に転げ落ち、見上げる。
男の醜悪な笑み。怒りと勝利を確信したかのような高揚が表情を作っている。
その後ろに同じく動きを止められたゲイズ。
そのゲイズが、吠えた。
「おぉぉぉぉぉ俺の、息子と娘を返せぇぇぇぇ!」
雷に打たれてなお、動き出す。
指揮官の男がゲイズの方を向き、また魔術を使うため、声を発し始める。
……やらせるか!
痺れる足に爪を突き立てる。
噴き出す血とともに、感覚を取り戻す。
一跳びでいい!
フレッドは力の限り跳びつき、後ろから男の首を絞める。
驚愕の表情。
「終わりだ!これで!」
「おぉぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁ!」
男の胸に、ゲイズの爪が、拳が吸い込まれていく。
男の背中から、爪が突き出した。




