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第73話 整う盤面

ダラン男爵は、薄く霧が漂う森に、眉をひそめる。

ただでさえ、鬱蒼とした木々に視界が遮られているのだ。


「逃げられたらかないませんねぇ」


思っていた先の言葉を隣にいたルネイが継ぐ。向かってくる分にはいいのだ。寧ろ都合がいい。

見えてなければ、魔術を当てることは難しいのだ。


「そういえば、ルネイ殿の適正は何でしたかな?」


火ならば、霧をとばすこともできるかもしれない。


「雷ですよ。ダラン男爵と同じです。第5聖言まで戴いてます」


戦後しばらく、貴族の子弟がどんな適性を獲得したかは把握することを怠っていたとはいえ、自分と同じ雷とは、知らなかった。しかも既に第5聖言まで獲得している。戦場での主戦力、自分がそうであったように。

それに、若い。自分の地位を脅かしうる。そういう人材だ、ルネイは。

ダラン男爵は、ルネイのことを決して味方として信頼するまい、そう思った。


「人狩りでは、第3の『地雷』までです。それ以上は、壊してしまいますので、お控え願いたい」


「ええ、もちろん。ここでは人狩りの先輩に従いますよ」


欲望が透ける。

ダラン男爵は先導するホーバスを見る。

ホーバスが言った事が正しければそろそろ集落が見えてくる。


……さて、どれくらいの規模であってくれるかな、ここは。


ホーバスが足を止める。

森が切れている。

霧もそこは晴れているようで、猫獣人族らしい住居が見える。


……期待していい規模の集落だ


ダラン男爵の口角が上がった。




「来るぞ、人狩りの集団、40と数人、誘いにのった!」


ゲイズとフレッドの元に、監視役の猫獣人族の男が駆け込んできた。ゲイズの顔が、喜色に歪む。

「あれを丘の上に上げろ、奴らが集落に入ったら役目だ。言い含めておけよ、フレッド」


フレッドは指示をだしてくるようなゲイズの言葉に、怒りを憶える。お前らは、まだ何もしていない。今も、8年前も。


「あの女が躊躇しても、言うことを聞かせるように、一人つける。最初に突っ込んでいくのはお前らだ。言い出したのはお前らだからな、フレッド!」


我慢ならないゲイズの言葉。もういい、ここに引きずり出せたのだ、もうどう足掻いても一蓮托生だ。


「怖ければ、後ろに引っ込んでいるといい、ゲイズ。この盤面を作ったのは、あの女、ミリアだ。ミリアが、結果として何も出来なかったとしても、俺たちは戦う。

お前らは……」


フレッドはゲイズとその取り巻きを見下ろしながら言う。


「あいつらの背後に回って、おこぼれを拾え。そういう作戦だったろ?」


フレッドの背後に、集落の男達が、戦える女達も集う。

「俺たちは、猫獣人族の誇りは、自分達の手で取り戻す。見ているといい、安全な場所で」


フレッドは振り返り、丘を見る。

まだ、そこに立ってはいないが、戦いが始まるときには、そこにいるのだ。


我々に、戦場を託したイタンシャの姿が。




ミリアは、別の集落の猫獣人族の男にせかされ、岩場を登る。そばには、介助するようにレットがつく。

ほんの少しの手助けが、ミリアの心を掬い取る。


猫獣人族の森の気配が騒がしい。

集落の中も外も。


息も絶え絶えに、バートの墓標…、石碑にたどり着く。一緒についてきた男が、鋭い爪を剥き出しにして、ミリアに突きつける。


「魔術師の魔術を封じてくれるんだってな?嘘だったら、切り裂いて、ここから突き落とす」


何を今さら、とミリアは思うが、猫獣人族は皆んじきれていないのだと言うことを、思い知らされた。


悪態でもなんでもいい、何か話さなければと思った時、レットが鋭く口を挟んだ。


「びびってんのかよ。俺たちは、覚悟きめた。死ぬ覚悟じゃない。こいつを信じて運命をともにする覚悟だ。同じ覚悟、持てないなら余所者は黙ってろよ」


レットは、守られるだけの子供じゃない。今の言葉を語れるだけで、それがわかる。


私の周りにいる子供達は、皆、私よりも立派だ……


ミリアは心の底から思う。


眼下に猫獣人族の戦士と、森の際に人狩りらしき集団の影。


……私も覚悟、決めなければいけないわね。


ミリアは、周囲の、集落全域のマナに意識を集中していく。


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