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第72話 人狩りの魔術師

「まったく、面倒になったもんだな」


人狩り稼業を始めて4年。最近は、猫獣人族も対策を取っているのか、なかなか手ごろな集団に出くわさなくなった。2年くらい前までは、森に入ればすぐ見つかるくらいだったというのに。


ホーバスは、独り言として呟いたが、側にいた男達は話しかけられたと思ったようだ。

「まあ、見つけても、すぐ逃げますしねぇ」

一人が肩をすくめる


「襲ってこられても困るけどな」


「困りゃしねぇよ、ホーバスさんが、ザッ!ってして終わりじゃねぇか」


そう、ホーバスの役割は魔術で動きを止めることだ。そうすれば後は、こいつらが足の腱を切って、爪を抜く。

それで猫獣人族は何もできなくなる。


戦争に出てたころに比べると格段に楽で安全な仕事。報酬もいい。ダラン男爵に感謝だ。


「おまえら、くっちゃべってると、やつら逃げちまうぞ。ちゃんと探せよ」


その時、前にいた男が手を挙げる。

喋っていた男達が口を閉ざし、静まりかえる。


ハンドサインは『痕跡発見』。


ホーバスは男の元まで腰を屈めて近づいていった。

そしてほくそ笑む。


地面に残る足跡

猫獣人族特有の爪痕。

しかも……かなり数が多い。

川の方角から、森の奥へ続いている。

真っ直ぐ進んだのなら、切り立った崖のような丘のあたりか。


……これは特別報酬がでるな


「おい、ダラン男爵に伝えろ。集落が近いってな」


伝言を携え、一人の男が駆けていく。


「他の隊とも連携を取るぞ。キャンプまで戻る。そこでダラン男爵とも合流だ」




クーレンの街、ダラン男爵邸

ダラン男爵は自室で酒をあおっていた。向かいのソファには、ルネイという魔術師が、乱れた服を整えている。

その傍らには、傷だらけの猫獣人族の女性が突っ伏している。


「楽しんでいただけたようで、何よりだ」


その声にルネイが反応する。

「恐れ入ります。とても良いもてなしをしていただきました。存分に働かせていただきますよ」


……次の狩りの獲物も味見するのだろうに…。強欲なことだ。


「それで、私の出番はいつになりますかね。このまま長期に滞在するのも悪くなさそうですが」


そう言ってルネイは、女性の背中に手を置く。

呻くような息が微かにもれた。


「旦那様、よろしいでしょうか」


扉の外から執事が声をかけてきた。


「入れ」


扉が開かれ、執事が部屋に入ってくる。部屋に充満する匂いに顔を歪めながら、隣まで近づき、耳元で囁いてくる。


「ホーバス殿から伝言が届いております。見つけた、と」


ダラン男爵の口が喜悦に歪む。

「下がっていい。準備させておけ、明日早朝に出る」


執事は頭を下げて部屋をでていった。


「ルネイ殿、出番がきたようですな。お力お借りしますぞ。明日、早朝に出発です」


ルネイもまた欲深い顔を隠さない。

「やれやれ、やっと行けるんですね。初めてなので楽しみですよ」


ルネイは思わず漏れた涎を乱暴に拭い去る。


「人狩り、はね」


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