第68話 人狩り男爵
ローゼリア王国とザーセン諸国連合の国境にほど近い街、クーレン。
街中のとある屋敷で一人の男が机に置いた地図を睨んでいる。
「昨日探ったこの区域にはいなかった。先週、この水場で親子がいたが子供に逃げられたのは惜しかったな……」
その男の前に立つ、背中が曲がった男が不快そうに言葉を発する。
「すいやせんね、男爵様。予想外に女が強かったんで」
その男の顔には鋭い切り傷が三筋刻まれていた。
「まったく、その場でバラしおって……女は商品になったというのに」
「男爵様だって、男の方を魔術でぶっ飛ばしたじゃないですか、あれで逆上されちまったんですよ」
追跡して集落の位置を突き止めれば良かった。背の曲がった男はそう言いたいのだ。珍しく、産まれてそれほど経ってない個体を発見して、欲がでてしまった。
「見つかりそうか?」
気まずそうな顔すら見せず、男爵と呼ばれた男が聞く。
「30人程でこの辺りを探ってます。狩る時はもう少し人数集めてくだせぇ。魔術師も何人か。依頼、溜まってんでしょう?逃がすのはもったいねぇです」
背の曲がった男が、地図を指しながら応える。
「あまり大掛かりにすると、教会に目をつけられるからな。あと10人、魔術師は私を含めて4人だな」
「それくらいじゃ包囲できねぇですねぇ……。この川のさらに先に追い込めれば両岸が崖になるんで、楽になりますがね」
「確かに閉じ込める形にはなる。が、自暴自棄になって向かって来られても厄介だ」
獣人族は、身体能力は人族を凌駕する。こちらの犠牲が多くなると今後の狩りにも影響が大きい。
「魔術でどれくらい、無力化できるか、だな」
その時、ドアがノックされる。
「どうした?」
「旦那様、エーデン子爵から使いの者が来ております。お通ししてもよろしいでしょうか」
背の曲がった男が机から離れる。
「じゃあ、あっしはこれで。また進展あったら連絡にきやす」
ドアが開けられ、執事と背の曲がった男がすれ違う。
侮蔑の視線
嫌悪の視線
一瞬の視線の交差。
執事と共に入ってきた男が声を発した。
「お初にお目にかかります。ダラン男爵。私は、ルネイと申します。エーデン子爵の下で働かせていただいております。……魔術師として」
……下級貴族の三男か四男といったところか。
「そのルネイ殿がこんな辺境までどのような用向きで?」
要件はわかっている。催促だ。
「エーデン子爵のお嬢様が、待ちきれないようでしてね。私が派遣されることになりました」
男爵はわざとらしく顔を歪める。
「エーデン子爵には確か数カ月前にも納品したはずですがねぇ。大切にしていただきたいものですな」
ルネイは気にせず応える。
「いやいや、ちょっと反抗的でしてね。お嬢様はもっと小さいのが欲しいとか……。私も手伝いますので、選ばせて貰えますかね」
……魔術師が増えるのは大歓迎だ。気持ちよく働いてもらおう
「こちらの指示に従っていただけるなら、歓迎しますよ。なんなら、味見されれば良い」
欲に塗れた応酬。
人狩りにまた一人魔術師が加わった。




