第67話 イタンシャと異端者
ミリアはレットとその母親と一緒に集落のそばにある小高い丘に登っていた。
そこに、バートが眠っているのだと聞いて、見ておかなければいけないと思って。
眠ったままのミナとミトは家に置いてきた。
「そういえば、あなたは名前、何ていうの」
レットの母親はミリアの顔を見て答える。
「シイラよ。さっきまで家にいたのは今の夫のフレッド。ミトの父親ね」
そう言ってシイラは岩場を軽々と登っていく。レットも小さい身体でついて行く。
……ミトのっていうことは、ミナは違うのね。
ミナの両親がどこにいるのかは容易に予想がついた。運命は過酷だ。
そんなことが今の彼らの日常になっているのだ。
岩場に手をかけて攀じ登る。
足を置き直すたびに、下を見ないようにした。
……帰り、降りられるかしら。
息をきらせながら、一つ一つ、岩を越えていく。
額を汗が流れる。
最後の岩。そこに手をかけ、身体を持ち上げると、丘を登ってきた風に銀髪が靡く。
汗をかいた身体を風が通り抜け、心地よい。
一番眺望のいい場所に、一抱え程の磨かれた石が置いてあった。ガラスのような光沢に、レットの姿が映り込んでいる。
その石がミリアに突きつける
同じ異端者の死
名前もなく、そこにいた事だけが残される
それは、未来の自分の姿かもしれない
……あなたはどんな理由で異端と呼ばれ、ここに眠ることになったのかしらね……
ミリアの想いに、風が服をはためかす音だけが応える。
「父ちゃんはさ、人狩りやっつけるくらいだから、強かったんだよな。だから、俺もイタンシャになって、母ちゃんやミトとミナを守れるくらい強くなるんだ!」
……そんないいものじゃない!
思わず叫びそうになる。言葉を飲み込み、レットに向き合う。
こんな状況でなければ、微笑ましい少年の決意だ。でも、今は差し迫った危機が猫獣人族の集落を襲っている。
7歳やそこらの少年に背負わせていいものではない。
「レット、違うわ。イタンシャだから強いんじゃないの」
膝を曲げ、レットと眼の高さを合わせる
「あなたのお父さんは、ただ自分が正しいと思うことを選び続けた人よ。それが誰にも褒められないことだとしても」
両手をレットの頬に添える。
「それがイタンシャよ。あなたはまだ子どもよ。何が正しいのか、何をすべきかを、大人を見て学びなさい」
多分すぐには理解できないだろう。でもそれでいい。今すぐ理解した気になってもらっても困る。
シイラを見上げる。
「バートがいないなら、それを見せるのが、私達大人の役目よね」
シイラは悲しげに目を逸らす。
「そんな簡単なことじゃないわ……」
ミリアはゆっくりと立ち上がり、今度はシイラと向き合う。
「簡単よ。あなたは今まで、ちゃんと見せてきているもの。それに、私も異端者よ、…」
……バートに代わって助ける……
そう口に出しそうになって留める。
それではいけないのだ。バート亡きあとの彼らの集落の状態が物語っている。ジルの顔が浮かぶ。
「私を利用しなさい」
ミリアはそう言った。
バートの代わりではない。
これは彼ら猫獣人族自身の戦いだ。
私は……
……ただの道具でいいわ




