第66話 英雄はもういない
聞き捨てならないことを聞いてしまった。思わず表情が歪む。
人狩りが横行している。
猫獣人族は人族の悪意に晒され続けているのだ。
奴隷として攫われているのか、趣向として命を刈り取られてるのかは分からない。
……反吐がでるわね……
種族が違えば、そんな非道なことができるのか、人族は。
ミリアは同じ人族でありながら、理解しがたい『人狩り』という行為に、激しい嫌悪感を抱いた。
「それで水場から遠い場所に集落を作ってるのね」
目の前の大人二人が頷く。
「どうしても目立つからね。他の集落との力関係もあるけど。この集落はその……、あまり良い印象を持たれてないから……」
話しにくい事情もあるようだ。
ミリアは話を変える。
「その、助けてくれたっていう男性はその後、どこに行ったかわかる?会ってみたいわ」
人族にも人狩りを許せない者がいたのだ、話してみたい。それに、過去にどうやって助けたのかは分からないが、今の猫獣人族の窮状を知ればまた駆けつけてくれるかも知れない。
女性は少し迷うような素振りをみせ、悲しそうな目でミリアを見る。
「もう、いないわ。私達を助けてくれたとき、命を落としたの。もう8年も前の話よ」
思わず発しようとした言葉が喉に引っかかった。
一瞬、視線がさまよう。
女性が俯いて続ける。
「遠い村で、奴隷にされた私を助けてくれたの。バートは何日もかけて、前に住んでた集落まで連れて帰ってくれた」
涙が膝に落ちる。
「集落、人狩りの集団に襲われてた。たった1人で、バートはやっつけたのよ。命と引き換えに」
ミリアは語る女性を見つめることしか出来なかった。淡々と語られるバートという男の人生。
胸が苦しい。
恩人を失った痛みが伝わってくるようだった。
女性は隣のレットの頭をなでる。
「集落に着く前に身籠ったのがこの子」
……ああ、やっぱり
レットの手の指は目の前の女性よりも長い
顔の毛も薄い
脚の形
だから他の集落からは良い印象が持たれてないのだろう。
またこの子達は集落を追われるのか。それとも……
「何とかできそうなの?その…、今来てる人狩り」
……私は何を言おうとしているのか
「私達にできるのは、隠れて、やり過ごすだけね。あいつら魔術使うから。爪じゃ届かない」
……貴族か、そうでなくても判別の儀をうけた魔術師が加担しているのね。なんて…
「外道ね」
「ホントにそう」
寂しく笑い、それぞれの膝にいるミナとミトを撫でる。気持ちよさそうにされるがままになっている。
……この子が攫われる未来なんて見たくないわ。
小さな家の中が静まりかえる。
外から聞こえる、子供の声。
揺れる心。今はただ受け止めろと、ミリアは自分に言い聞かせる。
その時、それまで口を閉ざしていたレットがミリアに向かって声をかける。
「なぁ、イタンシャってなんだ?」
……わからないわよね、異端者なんて子供には
「この集落を救った俺の父ちゃんは、イタンシャだったって母ちゃんが言ってた」




