第65話 殺されなかった理由
……警戒されてるわね、でも敵意はそれほど感じないわ。
どちらかと言うと、珍しい物を見つけたといった表情だろうか。
猫獣人族の集落で向けられる視線は大半がそんなものだ。
森であった5人の男とレット、それからミナとミトの母親らしき女性だけが特別なのかと、考えていて、思いあたる。
猫獣人族、奴隷、ミナとミト。
二人を抱いていた私。
……あ、私、攫いに来たと思われてたのか。
異端者として追われている自覚はあったが、犯罪者として見られているとは思ってなかった。
獣人族とは言え、基本的に人族と争い合ってる訳では無い。王都ローゼストでも絶対数は少ないが、獣人族も居住してたはずだ。
レットに、他の群れだったら死んでたとか言われてから、人族は猫獣人族に蛇蝎の如く忌み嫌われてるのだと思ってしまっていた。
……人攫いに対する嫌悪が強いのね、仲間意識の強さの表れ、それとも過去に何かあったのかな……
ミナがもぞもぞと動き出し、首から、布を巻いた頭の上に移動する。無防備になった首元を森の風が撫で、思わぬ冷えに身体が震える。
それが面白かったのか、頭の上でミナが、なっなっ、と声をあげた。
その声に前を歩いていた女性が振り向いた。ほんの少しだけ表情が和らぐ。こぼれそうな笑みをかみ殺して、抑えた声色で声をかけてくる。
「こっちよ、ここ。入って」
女性が指差したのは、小さな家。
女性が四つん這いになって入っていく。それくらい小さい。家の高さはミリアよりすこし高いくらい。奥行きは寝転がったらいっぱいいっぱいではないだろうか。
……え?ここ?私入れる?
「ほら、早く入れよ、邪魔だから」
後からレットが背中を押してくる。
「ちょっ!ちょっと待ってよ!入る、入るから!」
ミリアはしゃがんで家の中に入る。頭がギリギリだ。いつの間にか頭の上に乗っていたミナは背中にしがみついている。
家の中では、女性とミリア、そして一人の男性、それからレットが入ってきて、膝がつくような距離感で座るという形になった。中は魔導具の光源で仄かに明るい。
「人族には狭いでしょう?少しだけ我慢して」
ミナが背中から、ミリアの崩して畳んだ脚の上に降りて、膝の上で丸まった。女性の膝にも同じ様にミトがいる。
「この子、返したほうがいい?」
一瞬の逡巡。
「そのままいさせてあげて。あなたが嫌じゃなければ」
ミリアはミナをそっと撫でる。ミナはうなうなと、気持ちよさそうな寝息をたて始める。
それを見た女性が切り出す。
「あなた、本当に人狩りじゃないの?」
目が細くなっていくのとは逆に目の光が強まるように感じる。
「川に流されたって言ってたけど、何で流されたの?仲間割れ?」
……人狩り?人攫いと同じ意味なのかしら。違うこと……証明のしようがないわね……
考え込み、沈黙するミリアに、もう一人の男が口を挟む。
「あの川は街道に繋がっていない。目的がなければ、あの場所にいるはずがない。何をしに来た」
ミリアは男の方を見る。
誤魔化すのも馬鹿らしい。堂々としているべきだ。川に飛び込んだときに、どうとでもしてやると思ったじゃないか。
仮面はもうとってある。頭に巻いた布を無雑作に取った。
「私は手品師見習いのミリア。元子爵家令嬢のミリア・フレアベット。数日前に異端者扱いされて、追われて、森に入ったら、ブッシュウルフの群れに囲まれて川に飛び込んだ。
街のギルドにいけば、多分私の手配書があるわよ。納得していただけたかしら?」
一気に言い放つと、沈黙が訪れた。
ミナとミトの寝息だけが聞こえる。
「私達は街には入れない、でもミナが懐いてるのだから、信用するわ。でも、他の猫獣人族の集落には気をつけて。」
女性が一呼吸おいて告げる。
「ここ最近、人狩りが横行してる。みんな気が立ってるの。人族を見つけたら問答無用で襲い掛かられるわ」
男性が後を継ぐ。
「我々は過去に人族の男に人狩りの集団から助けられている。そうでなければ、我々も同じ事をしただろう」




