第64話 猫獣人族の集落
5人の男から放たれる剣呑な気配。
正面に立つ女性の目には迷いの色。背後のレットは息を呑んでいる。
足元のミナはミリアを見上げ、ミリアの足を掻く。
……なんで、この子、母親のとこに行かないの?
ミナがいるから、男たちは距離を詰めてこないのだろう。でも、人質にするようでもないから、どうしたらいいものか決めかねてるとミリアは推測した。
とは言えこのままでは埒が明かない。
「あなた、この子呼んでくれる?動かないわよ?この子」
はっとしたように、正面の女性が声をかける。
「ミナ!こっちにいらっしゃい!」
「ぅな?」
ミナはミリアの足に抱きつくようにして、動かない。
「ねぇ、ミナ…でよかったかな?お母さんのとこに戻りなさい?」
「……なー」
ミナは爪をたて、ミリアの足を登っていく。
食い込む爪が服越しに肌を撫でて痛い。
「え?ちょっと、ええ!」
あっという間に、ミナは肩のところまで登ってしまった。首に巻き付くように寛ぎはじめる。
「……ぅなぅな……」
……もう、どうしようもないわね……
ミリアは身につけていたナイフを地面に落とす。
湿った音と共に、ナイフが地面に突き刺さる。
両手を拡げ、抵抗しない意思を示す。
ほんの少しだけ、怖い。
「あなた、この子、何とかしてもらえる?何もしないから」
女性は、爪を出し入れしながら、恐る恐る近づき、ミナに手をかけるが、ミナはミリアから離れようとしない。爪が服に食い込む。
女性は深くため息をついた。耳が少し倒れる。
「仕方ないわ、あなた、ミリアって言ったっけ?そのまま集落まできて。悪さする風じゃないし、ミナが懐いてるなら大丈夫でしょ」
自分と周りの男たちに言い聞かせるようにぼやいた。
「ついてきて、こっちよ」
女性は男たちを引き連れて歩いていった。
……女性が指示をだすのね……人族の貴族じゃ考えられないわ……
隣にレットが並んできた。
ボソッと話しかけてくる。
「お前…、見つかったのが俺らの群れでよかったな」
……ん?何が?
疑問を顔に浮かべたミリアにレットが続ける。
「他の群れだったら、お前、今頃もう死んでる」
思わず鼻白む。対話ができただけで随分と運が良かったということか、ミリアは首元で寝息を立てているミナを軽く撫で、ミナがもたらした幸運に感謝した。
森には霧が立っている。迷う素振りもなく、一行は先へ進んでいく。分かりにくいが道になっているようだ。時々小さな枝が払われている形跡がある。
「ねぇ、なんで川まで来てたの?結構距離あるのに」
レットは不機嫌そうに、でも答える。
「水だよ。川に汲みにきた。そしたらミナとミトがどっかに行ったから探してた。」
「集落に水場はないの?」
ミリアは疑問を重ねる。
「黙ってろよ、もう着くぞ」
隣に並んでいたレットが後ろにつく。
霧が消えるとともに、森が開いた。
そこにはあるのは、粗末な木の柵、岩と木材を組み合わせて作られた家、森から響く斧を振るう音、小さな畑、そして、そこを行き交う猫獣人族。
土の匂い
隠しきれない閉塞感
それでも活気を生む力
隠れるように生息する猫獣人族の集落だった。




