第61話 流れの先に
舞う水飛沫
急速に冷やされる身体
殴りつけるような水の塊
流れに翻弄され視界が回る
河に飛び込んだミリアは、予想以上の水の衝撃に意識を失いかける。脳裏に親しき人達がよぎる。
……気を強くもたなきゃ!
息を止め、身体を硬くする。
水の流れに押され、水面の方へ押し出された。
「プハッ!ンン!」
一瞬の呼吸。また水の中に引きずり込まれる。
そんな事を何度繰り返しただろう。もう駄目かもしれない。冷えた手足の動きが鈍い、息が苦しい、意識が遠のく。
その時、足が川底に触れた。
意識を繋ぐ
石に弾かれる足を必死に踏みしめる
水に引っ張られる服を抱える
顔が水面から出た
「ゴホッ!ゴホッ!……ハァ、ハァ……」
新鮮な空気が、肺を洗うようだ。
少しの活力。
周りが見える、川の端に寄せられている。
堆積した小石、川から出られる。
一歩、また一歩と少しずつ川岸へ足を進め、身体が次第に水面からでていく。水を含み、重くなった服が水の中に未練を残してるかのようだ。
川岸についた。
安堵、そして恐怖。
「私はこんな事ばかりだな……」
家を出てから、自分の決断と行動の結果はいつも過酷だ。後悔はないが、挫けそうになる。
でも、まだ生きてる。
中指を回す。
マナがミリアを覆い、身体の周りに握り拳程の水玉が現れ、ボタボタと落ちていく。
「よかった、できた……」
服が含んだ水分を集めて、水玉にした事で、服が乾いた。
ミリアは周りを見回す。
まだ川岸は崖のように切り立っている。とても登れそうにない。下流の方には歩いて行けそうだ。
「空飛ぶ魔術とか使えればいいのに……」
そうしたら、この崖から抜け出せる。師匠は飛べるのだろうか。サラッと飛びそうだ。
ふぉっふぉっ、と言いながら飛ぶ師匠を幻視する。
「ふふっ、会えたら聞いてみよ!」
ミリアは下流に向けて歩いて行った。
日は既に傾いている。両岸を崖に挟まれて既に暗くなってきている。
まだ川岸から上がれそうにない。
ミリアは独りであることの厳しさを知る。休んで寝てしまうことが怖い。
川に飛び込んでから、魔獣とは遭遇してないけど、何が起きるかわからない。師匠といる時は交代で休んでたし、師匠がいることだけでも安心出来ていた。
目に見える範囲で、川岸から上がれそうな場所はない。そろそろ、身体を休める場所を確保したい。できるだけ安全な場所に。
足が早まる。川岸が少しずつ広くなっていく。何となく崖の高さも低くなっていってるようだ。ただ、もう暗くなっている。何度も躓いて、足元がおぼつかなくなってきた。
ふと、川岸の少し高くなっている所に、浅い洞が見えた。疲れた足を叱咤して登る。
人が2人入れるかどうかくらいの深さ。獣の住処にはなっていないようだ。
「ここなら……大丈夫……かな」
ミリアは腰を下ろす。
もう疲労で動けそうにない。騙し騙し魔術で身体を補助していたが、魔力の疲労も激しい。
「……し…しょう……」
光が差し込まない洞の中で、ザックに入っていた、湿った干し肉を口にいれ、咀嚼しながら、ミリアは眠りに落ちていった。
どれくらいの時間が経ったのか、少し明かりを感じる。
……ん……眠っちゃってたのか……
疲労が怖さを凌駕したらしい。
いつの間にか寝てしまっていたミリアは、頭が回らないまま、自分の状態を確認する。
多少は疲労は回復している
水の中ではない
あまり寒くもない
手元と身体の上に何か柔らかくて暖かい、フワフワしたものが乗って動いている。
……え?なにかいる!
急速に頭が覚醒する
目を開いた
2匹、小さい
……猫?
一匹がミリアの胸にしがみつくように寝て、もう一匹はミリアが握ったままの干し肉を食んでいた。




