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第57話 決着、そして別離

ギースの目に映るのは、もはや狩られるのを待つ獲物。膝をつき、ジルと呼ばれた少年を庇うように手を拡げている。


……あぁ、楽しかった


表情が緩む。瞬く間にこの手が心臓を貫くだろう。もっとも愉悦に浸れるあの感触が待ち遠しい。


全身が粟立つ

幾筋もの線で視界が揺らぐ

空気が焼ける匂い

何もない空間に熱を感じる


ギースの勘が最大級の警戒を告げる。


考える前に、飛びかかる勢いを止めるため、地面を踏みしめる。


勢いを止めきれず、感覚が告げる危険域に達する。


肌が裂け、舞う血飛沫

……何がおきた!!

前に踏みしめていた左足に幾筋もの線が走り切り裂かれる。


全身の肌を浅く切られ、血が流れる。

後一歩、前に出ていたら、死んでいた。

いや、それで終わらない。


ミリアと視線が合う。

眉間に強烈な違和感。

咄嗟に首を右に傾け、何かを避けようとする。

肌が熱を感じると共に、左耳が半分弾け飛んだ。


倒れるように転がり、ミリアから距離をとる。

冷汗が体を伝う。

流れる血の感触に、ギースは理解した。


「君も、殺せるのか」


あの少年が来た時から変わった。

覚悟を決めたのだ。


人を殺す覚悟を。


その瞬間に甘さが消えた。

勝ち筋がなくなった。


間もなく魔力が尽きる。そうなればあの少年でも容易く切り伏せられてしまう。


ミリアはどうか。

肩で息をしているが、まだ余力はありそうだ。

何せ、発動している魔術に無駄が無い。


……これは見誤ったな。


ギースは敗北を悟る。

ならば、生存を、そして次の機会を狙うべきだと考えた。微かに悔しさと称賛が滲み出る。


「これは、殺せませんね。機会を探ることにしましょう。ミリア・フレアベット、憶えておきなさい。私は貴方を狙いつづけます」


ギースは聖言を唱え、体にマナを纏い、光と共に姿を消した。



ギースが姿を消した。

マナの気配も急速にこの場を離れていく。

ミリアはゆっくりと力を抜き、その場にへたり込んだ。大きく息を吐く。


「ミリアさん……大丈夫ですか?あいつは?」

後ろからジルの心配そうな声


「ジル、あなたのおかげで助かったわ」

ジルがいなければ、覚悟が決まらなかった。あのまま殺されていただろう。


「あいつは、ここから離れたみたいね。また狙ってくるみたいだけど」


ジルは誇らしげな顔をする。

「俺、もっと強くなって、ミリアさんを守ります!」


嬉しい。

くすぐったいような、恥ずかしいような。でも……。


ミリアは仮面を外す。

「ねぇ、ジル。一つお願いがあるの」


ジルの顔に朱がさす。

「はい!なんでしょう!」


あの男がどこに潜んでいるのかわからない。

この子をこれ以上巻き込んではいけない。


「私はこのまま、ドルテンの街を離れるわ。『渡り鳥の止り木』ていう宿か、ボルス・ジェルナーと一緒にいる、仮面をつけたアサルカっていう人に伝えて欲しいの」


ジルが泣きそうな顔になる。


「ミリアは、先にアルネラの街に向かったって」


ジルの目に涙が溜まっていく。

「俺も一緒に行きます!連れて行って下さい!」


真っ直ぐな気持ちが、眩しい、嬉しい、痛い。

そっとジルの頭を抱く。

ジルの身体が固まる。

「あなたはドルテンで、子ども達を支えるの。あなたが居なくなったら、あの子達はまた物乞いに戻ってしまうわ」


抱きつく腕の力が強まる

「でも……ミリアさん、一人じゃ……」


「大丈夫よ。私、強いから。1人でも大丈夫よ」

強がりだ。


でも、私と一緒にいると、あの男に狙われる。


ミリアは、ジルをそっと離し、見つめる。

「あなただから、頼めるの。お願いできる?」


ジルは見つめ返してくる。

目に悲しみの色

少しずつ決意の色に代わる。


ジルは乱暴に涙を拭い、大きく頷く。

「わ、わかりました!……ミリアさん…、また、戻ってきてくれますよね……?

その時までに、強くなってます!みんな、強くします!」


ミリアの目から涙が落ちる。

……あぁ、なんて尊い……

「ええ、楽しみにしてるわ。それじゃ、行って、ジル!」


名残惜しい気持ちを振り払うように促す。


ジルは頭を深く下げて、ドルテンの街へ駆けていった。


ジルを見送った後、ミリアは、自分の行先を思う。


アルネラ。


おおよその方角はわかる。

街道を使うと少し大回りになる。

森を突っ切れば真っ直ぐだが危険だ。


あの男、ギースに追われるよりはいい。


ミリアは、森へ足を運ぶ。

森に入る直前で、一度だけ振り向いた。


小麦畑に浮かぶドルテン。

その門の前で小さく手を振る影。

ミリアは少し口をゆるめた。

もう振り返らない。


ミリアは森の中に入っていった。


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