第54話 不意の一撃
完全に不意をついた奇襲だった。
避けようのない攻撃を、逃げ道を塞ぐように重ねたのだ。
……だが、この感触はなんだ……!
ギースの振り抜いた左足は、骨を折り、肉にめり込むのではなく、重い衝撃と共に水飛沫をまき散らし、ミリアの体を門の方へ押し飛ばすに留まっていた。
予想外の状況に、ギースは警戒を強める。
……気づかないうちに護衛が、それも魔術が使える者がいたか?!
おそらく、水の塊をあの瞬間に発生させたのだ。ギースの足とミリアの体の間に!
押し飛ばしたことで、ミリアとの間に距離ができてしまった。しかも、ミリアは門の外だ。
ミリアは腕を押さえているが、すぐに起き上がって、門の影に消えていく。
「チッ!逃がさん」
軽く舌打ちをして、追いかける。
あまり時間をかけたくはない。今ならとどめをさせる。
門を通り過ぎようとした時、誰かが前に立ちはだかった。
「この街の者に危害を加えるのは、看過できない!やめてもらおう。貴様の名を言え!」
門番が立ちはだかった。
槍を握る手は震え、声も掠れている。
振り払おうとした時、さらに前に人集りができる。
剣を持った少年、孤児、中年の女性……
理由なく、無垢な民を傷つければ、教会の威信が揺らぐ。
ギースの立場が行動を縛る。
「異端審問官ギース・ラビアだ。
市民の安全の為に、異端者の駆除を行う。
下がれ、道を開けろ!邪魔するなァ!!」
恫喝するギースの咆哮の前に、立ち塞がった者達が腰を抜かす。
苦々しい顔をして、空いた道を駆け抜ける。
ただ一人剣を構えている少年の横をすり抜けていった。
剣を構えている少年、ジルは悔しさに歯を食いしばっていた。
押し飛ばしたミリアさんの手
ミリアさんの悲しそうな表情
弾ける、その手
水飛沫を上げ吹き飛ばされるミリアさん
……やめろ……やめろ!!!
すぐに立ち上がり、駆け寄る。
いつも挨拶を交わしてくれる門番が立ち塞がり震えている。
逃げ出したい
足が震える
でも!
今はここで、ミリアさんを守る!
剣を構えたとたん。男から凄まじい圧力がはなたれた。
血が滲むほど歯を食いしばり、震える足を踏みしめる。
門番や側に来た孤児達が次々に腰が砕け、脇へ逃げていく。
恐怖に背筋が固まり、冷汗がとめどなく流れる。
男が横をすり抜けていったとき、ジルは激しい怒りに身を焦がした。
……ミリアさんに、何をする!!
怒りを力に変え、無理矢理に足を動かす。
ジルは男を、ミリアを追いかけて、走り出した。
そのジルの視線の先、外壁に阻まれて見えないその先で、ミリアは麦畑に転がりこんでいた。
……敵に不意を打たれたら、距離をとれ。体勢を立て直して五分にしろ。
出来ているだろうか
焦る気持ち、息が詰まる
痛む腕
……そ、そうだ右手!
腕の痛みで、指先の感覚がない。
恐る恐る、目を落とす。
……ある
詰まっていた息が漏れる
……よかった
この右腕に残る感覚には、憶えがある。
王都で、マナ鉱石を持たされた時と同じ。
魔力に直接作用するような、重く、鈍い。
それを集中させたような。
腕がある事で少し落ち着いたミリアは、周囲の様子を伺う。
視線は切れているはず。ブッシュウルフならいざ知らず、人相手なら、次はこちらが先手を取れるはず。
マナの動きを探る。
多分あの男もマナを纏って身体の動きを補助しているのだろう。マナの塊として見える。
それが、まっすぐミリアの元へ向かってきた。
「そこにいますね、ミリア・フレアベット。会いたかったですよ」
聖言とともに、圧力を伴う光の放流が向かってきた。




