第52話 向けられる殺意
……集団はいない。でも近いところで数匹うろついている
ブッシュウルフは鼻が利く。こちらが先に捕捉するのは不可能だ。ミリアのようにマナの動きを掴めなければ。
ミリアはマナの動きに集中する。
捕捉できているとは言え、先手は必ず取られるのだから。
……2匹、気づいたみたい。近づいてくる
迎え撃つには、場所が悪い。少し開けた場所へ移動する。2匹に距離を詰められる。
マナを体に巡らす。
この感覚、やっぱり気持ち悪い。
「ミリアさん、何かいる気がします」
……あら、鋭い
小声で言うジルに感心しながらも、表情を変えずに手で止まるように合図する。
2匹が急速に距離を詰めてくる。早い。
鋭い殺意
木の陰から飛びかかる牙
剣に手をかけたまま硬直する体
回る中指
走る熱線
……私はズルいな。魔術の力を、個人の差にしようとしてる。きっと、師匠に会えたかどうかの差でしかないのに
勢いのまま、切り裂かれる狼
その体躯は、ジルの足元で事切れた
「わかった?ジル?」
「動けませんでした……怖くて、飲まれて……」
……ジルは、正しく理解してくれた。その答えでわかる
「それでいいの。これから経験を積めば、動けるようになるから。今、半分抜いた剣は成長の証よ」
ジルは全く反応できていないわけではなかった。ミリアの予想を少し上回った。
ミリアはそのことが、たまらなく嬉しかった。
「じゃあ、その2匹、魔石だけ回収して?ジルの狩りに戻るわよ」
ジルにブッシュウルフの魔石を回収してもらった後、昨日のように、グラスラットを狩った。
ジルは何かを試すように、戦い方を少しずつ変えていく。それはきっと、魔術に頼らず、剣だけで生きて行くハンターの正しい成長なんだと、ミリアは信じることにした。
ミリアとジルが研鑽を積んだ後の街道の夜。
静寂を壊す、駆けている足音。
軽く息を切らしながら駆ける男の影。
ふと、立ち止まる。
「匂い……血と……汗……それから……」
口元が歪む。
「……花の匂い。いたんだな、ここに。」
匂いに誘われてその男は森に入る。夜目が利くのか迷いなく木を避け、藪を掻き分けて進んでいく。
途中何度となく、ブッシュウルフが襲いかかっていくが、その拳で、蹴りで、仕留めていく。
「これ……か?」
魔石を取られたブッシュウルフの死骸2匹。刃物により切り裂かれている。
それぞれ、一太刀で仕留めたようだ。
「それなりの腕のハンターがいる……か……」
護衛としてハンターがついているとしたら、面倒だ。確実に仕留めるなら、一人でいるときを狙うべきだ。
とは言え、獲物は甘さはあるが、極大魔術の使い手。
対峙、リスク、不意打ち、護衛、魔術を使わせない場所……
その男は頭の中で計画を練る。
金の目が小刻みに揺れる。
匂いはそこから、ドルテンの街へ続いているようだ。まだ逃げてはいない。
月明かりが森の中を照らす。
月明かりの中、ギース・ラビアはドルテンへと歩いて行った。
……待っていろ、ミリア・フレアベット……




