第51話 狩人の目覚め
「ドルテンですか……なかなか遠いですね。知らせの内容はなんと?」
ギースの問いに神官が答える。
「ギルドの手配書が取り除かれたらしい、本人か協力者がいるのではと」
「異端とは言え、ただの子爵令嬢がドルテンまで一人で移動したとは考えにくいですね。協力者がいるのは間違いないでしょう。ただ……」
ギースは口元に手を当て考え込む。金色の虹彩を持つ目が、小刻みに揺れる。
……ギースが考え込んだ時の癖だ。気味が悪い……
神官は密かに嫌悪感を抱く。
「何かひっかかるのか?」
目の動きが止まり、神官を見る。
「ドルテンはキギリス教皇領に近づく方向です。ミリア・フレアベットは異端として追われていることを知っている。なぜわざわざ危険な方向に行ったのでしょうね……」
再び目が動き出す。
ドルテン、教皇領、東、物資、人流……
目の動きが止まり、金色の瞳がドルテンの方向を見据える。
「……なるほど、ハンターか」
ハンターとなって東に流れる人流に埋もれるつもりか。身分だけのハンターなど星の数程いる。
協力者がハンターなら手引きも容易い。ギルドから手配書が取り除かれたことも合点がいく。
好物を見つけた狼のように、
裂けるように口が歪み、金色の瞳の瞳孔が開く。
「私が直接向かいましょう」
街をでたと判断したときから準備は済んでいる。
ドルテンまで常人なら3日。
ならば、2日、いや1日で着く。
ギースは言うやいなや音も立てずに部屋を出ていった。
神官はいなくなったギースの席にため息を漏らす。
「また一人、異端が消えるな」
……碌な最期にはなるまい……
夜が明ける。
昨晩は師匠は宿に戻ってこなかった。マナの気配を探ると、貴族街区に感じるから、そっちに泊まったのだろう。
宿代がもったいない。
昨日はジルの狩りだけ、私の稼ぎはない。ライネルから貰った金貨袋を除けば、スッカラカンだ。
「今日は少し稼がないと、宿代が払えなくなっちゃうわね」
誰も応えない呟き。
ミリアは、宿の食事を終え、門に向かった。
昨日と同じようにジルが門のところで手を振っている。思わず笑って、小さく手を振り返した。
「今日は私も少し狩らせてもらうわね。解体はお願いしてもいい?」
ジルはそれを聞いて嬉しそうに応えた。
「もちろんです!任してください、ミリアさん」
ミリアは今日の獲物について考える。ジルに、今のうちにブッシュウルフを見せておくべきか。
ミリアがいない時に遭遇したとき、知っているか知っていないかで、生きるか死ぬかが別れかねない。
知らなければ、逃げるという選択をせず、無謀に挑んでしまうかもしれない。
「ジル、約束できる?森には一人で入らないって」
ジルは何を言われたのか分かってないようだ。
「前に、自分の力を見極めるまでは、入るなと教わりました」
……憶えてたのね。なら大丈夫かな
「なぜ、ダメなのかを見せておくわ。奥までは行かないから心配しなくて大丈夫。でも、常に警戒は忘れないこと」
ジルは息を飲み、表情をひきしめる。
いつでも抜けるように、剣に手をかける。
ミリアはそんなジルを連れて森の方に向かっていった。




